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[証言録]海軍反省会 3
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歴史
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【黛発表 砲戦はなぜ軽んじられたのか】日本の標的射撃の命中率はアメリカの三倍

『[証言録]海軍反省会 3』
[編]戸高一成 [発行]PHP研究所


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 (わたくし)は今年の三月、四月号の「水交」に「開戦前の戦艦主砲の真の攻撃力」という題で、二カ月にわたってかなり詳しく、鉄砲屋としての研究を発表しました。


 その時までは、私は反省会というのは、こんなにいい会があるのは知らなかったのですが、土肥さんに言われて、みなさんの質問に答えろというので参った事があるんです。それが縁でこの会に入れてもらったんですが、何しろ雑誌なんかに書くにはページの制限がありますし、ここでは時間の制限がある。それで、質問される方も十分に質問をされなかったでしょう。それから、この会員のみなさん以外に、例えば亡くなられた高木惣吉(兵43)少将のような、私の意見に対して非常に強く反対される意見もあるんです。

土肥 お座りになったら。

 私は長年教壇に立っていましたから、みなさんのような真面目な居眠りしない方に言うには、立ってやるほうがいいんですよ。座ってもいいけれどもこのほうが慣れていますから。


 高木さんのような、もう亡くなられた方で議論できない方もいますけれども、その他、今年の五月頃ですかな。「歴史と人物」(一九八一年、中央公論社)の増刊というのに航空出身の吉岡(忠一・兵57)さんが、私及び猪口((とし)(ひら)・兵46)中将辺りを名指しで出しまして、砲術家の考えが古いとか、頭が固いとか、色々意見を書かれた。私は、出たのは知っとったんですけども、よく中身を読まなかったんですが、最近ちょっと読むと、黙っちゃおれないと。黙ったら私はそれを認めて、(私の)言っている事は間違ったという事になりますから、機会があったら、何かの、例えば書くとか、喋るとかで吉岡さんに話をしていきたい。


 それから、今始まる前にお話があったんですが、私の意見に反対があると。私も軍令部の一課長の富岡(定俊・兵45)少将が書かれた「開戦と終戦」(一九六八年、毎日新聞社)か、もう一冊何かありましたが。それから戦後、富岡さんの催される、未来を予測して世界情勢を論ずる会にもよく伺いまして、富岡さんのお話を聞いて、非常に尊敬し、かつ親しくしておった先輩ですが、今よく考えてみると軍令部の大作戦方針などについては、まことに申されない。


 軍令部総長は砲術家でありながら、山本(五十六・兵32)元帥、連合艦隊長官が、現有の兵力では自信がないと言って、航空万能作戦をやった。軍令部としては、第五課という立派な情報機関を持っておって、昭和八年から十年頃にわたって、アメリカの艦隊の射撃、その能力、それから戦術、そういう具体的な生々しい資料を矢牧(章・兵46)さんとか私とか、犬馬の労を取って、色々調べたりした。そういう第五科の資料を持っておるんでありますから、軍令部一部一課、ことにその元締めの軍令部総長ともあろう者は、そういう事をよく知って、そしてどういう作戦をやるかという事を決めるべきであったと思うんですけれども、どうも実績を見ると、永野((おさ)()・兵28)大将も日本の弾が標的射撃で三倍、実戦で、こっちは、九一(式)徹甲弾、向こうはよく知られた普通の徹甲弾。そういうのを使うというと、命中率がこっちは五倍もすると。そういう事を知っておられなかった。知っておられたならば、山本元帥が昭和十六年の春頃から、火のつくように軍令部に催促してハワイ奇襲をやると。その根拠は、普通の水上艦艇の、代々やっとった戦術では勝てないと。その根拠は、山本長官が昭和十四年の八月から、その手紙を書いた十六年の一月まで、及川大臣に出した手紙です。それまで一年半をもって、何回も射撃を見ておる。艦隊でやる研究会にも出ておられる。にもかかわらず、そういう間違った判断をしておった。それを軍令部総長ともあろうものが、お前、これは考え違いだ。軍令部五課の調査によれば、こういうふうに日本の戦艦の攻撃力はあるのだから。しかも水雷戦隊の、あるいは軽巡、大巡まで持っている九三(式)魚雷、それから急に発達した航空母艦兵力の雷撃。それから零戦の戦闘能力、その他艦隊決戦に協力するための潜水艦の実力。こういう事を総合すれば、あり合わせの兵力でやったほうが得なんだと言って、山本長官のハワイ奇襲、それに続く各種の航空を主とするような作戦を訂正させるべきであったと思うのです。


 それをやらなかったという事は、どういう事かと言うと、永野修身は砲術出身でありながら(砲術を)全く知らなかったんじゃないか。そういう思いがするんですが、私は昭和七年の暮れに砲術学校の戦術科に入りまして、約二年ばかり砲戦術を主として、そのうちアメリカ海軍の戦術については、軍令部の委嘱によって真剣に研究をして、昭和九年の春頃には標的射撃において確実に日本の命中率は三倍という事の確信を得たんです。


 それらの事を考えてか、軍令部から、ひとつアメリカへ行ってアメリカの砲戦能力、または戦争遂行能力というような事をよく調べてもらいたいと言われまして、アメリカ駐在となって昭和九年の七月から丸二年間アメリカにおりました。


 それで出発の時に、野村吉三郎(兵26)大将、それから永野修身大将の所に、二人ともアメリカの大使館の書記官をやられた経験者ですから、横須賀でお訪ねして伺いました所、二人とも同じようなことを言われた。


 君、軍令部はね、命がけで細かい事を調べろなんて言うだろうけれども、そんな事をまともにやる必要ないよ。二年間、英語でも勉強して、ゆっくりやってきたまえと言われたんです。私は驚いたんです。


 この大正六年に、ある諜者が持ってきた印刷物によると、アメリカの三六サンチ砲の命中率は日本のちょうど二分の一。これは私が昭和五十二年に出した「艦砲射撃の歴史」(一九七七年、原書房)に詳しく書いてありますが、その事以来、少しも確実な情報というのはなかった。


 しかし、満州事変が起きて、昭和七年、八年、海軍の予算も増えたのもありましょうが、日米の国交がだんだんと険悪になってきたので、万一に備えてアメリカ艦隊の大口径砲の射撃、特に命中率を調べたかったに違いない。それで横山(一郎・兵47)君、私のクラスの横山一郎が補佐官の時に、大使館付武官補が下村(正助・兵35)大佐だったと思いますが、相当な予算を使って、諜報網を敷設して、そして横山は、これで諜報網の概略はできたんだから、後の人がしっかりやれば、相当(情報が)入るだろうと言っておりました。


 それで、矢牧(章)さんなんかの骨折りで、昭和十年には、昭和九年、一九三四年の戦闘射撃の事を書いた、このくらいの厚い(砲術年報を手に入れた)。日本の砲術年報というのは三冊か四冊ありまして、一番厚いのでも二〇ミリぐらいの厚さです。ところが、アメリカの砲術年報は一九三四年のやつが、だいたい一〇センチぐらいの厚さです。それに普通の新聞よりも小さい字でぴったり書いてあるんです。それを、フォトスタッド(写真複写機)というのをロサンゼルスから矢牧さんなんかは買っておられて、我々は電報で呼び出されて、そいつを一生懸命コピー取る。約一〇〇〇ページありました。


 それで、私のほうの仕事は、昭和七年から九年の夏まで二年間にわたって、明治四十年から昭和九年の初めまでの、あらゆる射撃を丹念に調べた。そして、それを何百枚という方眼紙にグラフにして、それで統計的に日本海軍の命中率を調べた。私は家が横浜だったんですが、土曜日には午後居残りまして、午後になると半分上陸して、兵隊は練習生が半分残っている。そして、高等科練習生の優秀な下士官が五〇名、一〇〇名と竹ぼうきを持って庭掃除をしている。四時頃までやっているんですが、そんなばかな事はないと思いまして、そのうちから最も優秀な高等科練習生を毎日、毎土曜日五〇人もらいまして、二時間なり三時間、私が指導して、人海戦術で千何百回の各種艦艇の戦闘射撃の経過図を書いた。そして、それから横軸に距離、縦に命中率を書いた命中率曲線というものを書いた。これは、我々が高等科学生をやっておった大正十四年、それから大学校の甲種学生をやった大正四年、五年には、戦術を研究する場合、ことに砲戦術を研究するのに、そういう距離と命中率の微妙な変化をグラフにして、数字的に確固たる基礎を以て戦術を論ずるのでなくて、ただ丁字戦法のように、平均距離は何百メートル、日露戦争と言えば千何百メートル、こちらは小さいから余計命中すると。


 さて、どれだけ命中するかというと、その頃は命中率曲線なんてないから、いい加減なんです。我々が昭和六年、日向の副砲長で艦隊の兵棋演習なんかやっても、やっぱりその頃はまだそういう命中率と距離との関係を具体的に示したものはなかった。


 私は、日本の命中率を、ことに戦艦の大口径砲の命中率曲線を書いて、そしてでき上がった頃金庫の中を見ると、大正十三年に入手したアメリカから取った命中率曲線があった。それを日本と同じスケールでやってみると、日本のよりもはるかに悪い。しかし、それはだいたい我々は、大正十五年から昭和五年まで兵棋演習に使った命中率とよく似ておった。だから恐らく実際の命中率の五分の一ぐらいでなかったかと思いますが、はっきりした記憶はありません。


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