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貧困とセックス
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政治・社会
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サブカルライターが社会問題を語る時代

『貧困とセックス』
[著]中村淳彦 [著] 鈴木大介 [発行]イースト・プレス


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中村淳彦(以下、中村) 僕たちはB級出版社の仕事が多いライターです。コンビニエンスストアの片隅にあるような雑誌から依頼されて、内容はエロや裏社会がメイン。僕はAV女優や風俗嬢のインタビューが多く、鈴木大介は犯罪の加害者側に入り込んだ取材をして書くことを続けている。もう一五年以上、やっている仕事自体は変わってないし、二人ともライターとして底辺というか、片隅にいる立場です。僕は昔から一般誌のライターとか編集者とか、大手メディアの方々と自分たちは別世界という意識があって、たまたま出会ってしまっても、名刺交換するのも申し訳ない気持ちがあった。そんな末端ライターの我々が、ここ最近、「貧困」の分野で担ぎ出されている、っておかしな現象だと思わない? 取材する対象者も、やっていることも、まったく変わっていないのに、世間というか、日本がおかしくなっていることが原因でしょう。
鈴木大介(以下、鈴木) 結局、貧困っていうのは、世の中から隠されてきた人たちだから、世の中の裏側を取材している僕らのほうがそっちに明るいのは当たり前と言えますけどね。B級のサブカルチャー系雑誌を土俵に取材を続けてきて、いざ一般誌でも書くようになったら、裏社会について編集者とのあいだに二〜三年の情報格差があることに驚いた記憶があります。社会の底が抜けて、もうその裏側を無視できなくなってきたということだと思いますね。
中村 裸の女性たちや貧困層の取材をしていると、異変を感じる。たとえば、真面目な女子大生や介護福祉士や保育士がカラダを売っていたり、AV女優への世間の評価が突然上昇したり、「意識高い系」の優等生層で宗教まがいの自己啓発が流行したり、気持ちの悪い違和感を覚える現象が多い。高度経済成長期やバブル期だったら決して起こっていない現象を、下層の世界で目撃することが増えた。
鈴木 女子大生や介護職が風俗業界に増えたのは、いくつか理由がありますよね。若者やその親世代が低所得化したこと、セックスワークの間口がネット求人などで広がったことや、その層でセックスワークに就く人が増えたことで全体的な参入ハードルが下がったりだとか。優等生が自己啓発にハマるのは一九九〇年代のカルトの時代からあったことですけど。この優等生とAVについては、最近あからさまに「安っぽい夢を見させる人々」がいますよね。若者全体が将来に夢を持てない閉塞感があるなかで、何かキラキラした目標を見せて、なんとか甲子園とか、AVだったら地下アイドルのような底辺の芸能界とAV業界の距離を近づけて混同視を狙うような手法です。
中村 B級出版業界周辺では、前から「鈴木大介は熱い、真剣だ」と言われていたけど、最近、さらに重みを増した印象がある。脳梗塞で倒れたのは一年ぐらい前? 病魔に襲われてから、さらに「日本の底辺に(まん)(えん)する貧困問題を解決しなくては」という情熱を感じる。
鈴木 先日、脳梗塞から復帰までの闘病記『脳が壊れた』((しん)(ちよう)新書)を出版させていただきました。闘病記って私小説だけど、内容はなかば貧困問題です。僕自身が脳梗塞の後遺症として軽度の高次脳機能障害を抱えて初めて、貧困者や精神疾患者、発達障害者といった、いままで取材してきた「生きづらい人たち」の当事者の苦しみがわかりました。正直、ルポライターとして以前どおりの取材を続けるのはもう難しいと思うんですが、こうなってみて、ようやく当事者の感覚で報道ができるなと……。
中村 病気をきっかけに貧困の当事者に近くなって、見える風景が変わってきた。そういう状態になっていることは知らなかった。鈴木大介が扱ってきたのは、貧困のなかでもシングルマザーや売春する少女が抱える最貧困には、餓死とかも想定されるほどの現実があるということ。壮絶な現実を取材して一つひとつの事象に真剣に向き合うのはわかるけど、健康に悪そうだ。真剣に取材対象と向き合う同業のライターはこれまでも何人かいて、ほぼ全員が精神をおかしくして長続きしていないから。
鈴木 僕は貧困取材のなかで貧困恐怖症にもなっているので、いろいろ対策はしてきてたんで、貧困の当事者にはならなかった。実際に取材活動をマジでやっていると、こんなふうに病気になっちゃうかも(笑)。
中村 人物取材と自分自身の健康は、相関関係があることは間違いないね。僕の場合は気が狂っている人とか、死を感じる人とは距離を置くようにしている。大学を卒業しておもしろ半分でライターになったけど、二〇〇〇年に同じようなジャンルで活動していた()(じま)ちづるという女性ライターが自宅で変死したり、二〇〇三年には同じ雑誌で書いていたライターが東京湾に沈められて変死体で発見されたり。その後も何人かの同業者は精神が壊れて、いまだに立ち直れていない。壊れてしまったライターは才能がある人ばかりだった。若いころから、ライターという職業は一歩間違えれば危ない、恐ろしい仕事という自覚があったから、どうすれば安全に働けるかは考えていたよね。
鈴木 僕の場合は倒れるまで働きたかった。結果を残すためのひとつとして、倒れるまでやりたいと。だから、脳梗塞で倒れたときに、「ここまでやった」という達成感はあった。朝起きたらしゃべれなくなっていて、病院に行って緊急入院しましたけど、その前から過労のなかで倒れる予感はあったんです。「俺、そろそろ倒れるから、倒れたらよろしく」と取引先や大事な取材対象の連絡先を嫁さんに渡していました。
中村 どうして倒れるまでやるの? わからない。
鈴木 僕もわからないです(笑)。性格かな……。ただ、ここ数年は現場の取材が減って、仕事も書籍やマンガ原作を中心にシフトしてきて、焦りもあった。このへんで結果を出さなきゃと思っていました。と、考えていたら倒れちゃった(苦笑)。ローティーンの取材はもともと難しかったんですけどね。彼らはまだ自分の環境や気持ちを言語で表現できないですから。
中村 ノンフィクションのライターをやっていれば必ず起こるひとつのポイントとして、「不幸な人と出会ったとき、どう思うのか」というのがある。僕の場合、若いころは感情移入して、「どうにかならないのか?」と深く考えたりしていた。支援までいかないけど、力になりたいみたいな意識を持って接しても、ソーシャルの専門性があるわけではないので、どうにもならない。どうしても若いころは知識や経験もないので主観が入ってくるし、相手が本当に不幸なのかも実際にはわからない。結局、取材対象は基本的にそのまま描写するだけ。そう割り切ったのは一〇年くらい前かな。それからは、その人たちが仮に不幸な状況にあれば、救済できるようなしかるべき人にその現実が届けばいいかなと思ってやっている。だけど、鈴木大介は違うわけで、なんとかしようとしているよね。
鈴木 僕も同じですよ。記者は支援者とは違いますし、専門性もないし、個人の力でやれることは、きわめて限定的です。だったら、どうにもできなくない世の中にしてあげないと。「その子たちを再生産しない世の中にしましょう」と提言するぐらいが、何もできない記者()(ぜい)がやれることなので。


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