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貧困とセックス
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政治・社会
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おわりに

『貧困とセックス』
[著]中村淳彦 [著] 鈴木大介 [発行]イースト・プレス


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おわりに 中村淳彦


 鈴木大介と久しぶりに長い時間を話して、日本は現在進行形で本当に荒れていることを再確認した。我々はコンビニの片隅に置いてある実話誌や男性娯楽誌出身のライターであり、鈴木大介は犯罪加害者周辺から、私は性風俗、AV、介護業界側から取材を続けている。初めて会ったのは一九九八年あたりで、現在のような荒廃の予兆はありつつも、「貧困」というキーワードはまだ頭になかった時代だ。

 当時から現在にいたるまで、我々がやっていることはまったく変わらない。出版社に依頼されて取材して原稿を書く、それをひたすら繰り返している。貧困をテーマに取材をしているわけではない。性風俗やAV、裏社会などの日常の取材に続々と生活困窮者が現れてくるようになり、日本社会の深刻な変容にだんだん気づいた。我々の日常の取材が勝手に「貧困問題」となっていった、という経緯だ。

 たまたま先日、女性の風俗関係者から連絡があった。「大手新聞の記者から取材を依頼されたので、無理して受けたの。タクシーで移動中に質問に答えたら、『私が君たちと一緒の世界の人間と思われるじゃないか。場所をわきまえたまえ』と言われた」と怒り狂っていた。

 この一〜二年、大手メディアが「貧困問題」の取材に進出するようになり、このようなありえないトラブルが頻発している。その大手新聞の記者の経歴は知らないが、おそらく裕福な家庭に育ち、親に恵まれた生活環境と教育費を提供されたエリートであろう。ほぼすべてのトラブルの原因は、鈴木大介の言う「階層違いによる想像力の欠如」だ。日本は学歴社会が続いているので、大なり小なり、この大手新聞の記者のような人物が社会を動かす層にいる。大手メディアの想像力が欠如した横暴な態度を見ていると、おそらく彼らは同じ階層同士でしか会話ができない。そのような人物たちが発想することは自分たちが住みやすい社会にするという漂白で、迷惑だから、汚いから、恥ずかしい仕事だから、働く女の子が哀れだからという理由で、繁華街やスカウトの浄化やAV関係者を糾弾し、それが摘発につながったりする。

 日本は法治国家なので犯罪者を摘発するのは当然だし、結構だが、下層と会話ができないまま、また下層を切り捨てた状態で、恵まれた上層同士でさまざまなことが決定されて、前記の大手新聞の記者のような人物が世論を誘導する。違和感だらけなのだ。このままだと野垂れ死ぬかも、という繁華街を漂流するホームレス女性を風俗や売春の世界につなげて普通の生活を提供しているスカウトマンを捕まえれば、たんなる社会資源の喪失だ。

 例を挙げれば、深刻な貧困女性が多かった沖縄の真栄原社交街のような場所をつぶしてしまえば、生きる糧を失った貧困女性たちはとことん追いつめられる。性風俗の市場規模は二兆五〇〇〇億円程度といわれている。売春に代わる経済的な救済が提案されたうえならば理解できるが、権力ある「想像力が欠如した」恵まれた層が実行するのはつぶすだけ。先日、浄化された旧真栄原社交街に行ってきたが、売春女性たちが追い出された街は別の用途に活用されるわけでなく、(はい)(きよ)が立ち並ぶゴーストタウンになっていた。なんのために浄化をしたのか、さっぱり意味がわからない。経済的には損失でしかない。

 一流大学の女子大生や子育てをする母親が働く性風俗業界から眺める「貧困問題」はシンプルだ。単純に、普通に生活するためのお金が足りないことが理由である。経済的な苦境は個人の性格を軽々と越えてくる。現在の性風俗は普通の女子大生やお母さんが普通に働いている。その背景を調べていくと、学費の高騰や奨学金、高卒雇用の減少、最低賃金に張りついた質の悪い雇用や、子どもへの貧困の連鎖など、続々と矛盾や問題が浮かび上がってくる。挙げ句の果てに再分配の最後の手段である性風俗や売春もつぶすとなると、もう手に負えない。誰もがお金がなければ生活はできない。救済なしに排除するほど貧困の当事者たちが地下に潜ることは当然で、援デリなど反社会的な組織が、生きていけない女性たちに普通の生活を提供する実質的な“福祉”になるほど、いまの日本社会は荒れている。

 性風俗に足を踏み入れても最低限の生活ができない女性が続々と現れて、どれだけ取り締まっても特殊詐欺は悪化の一途だ。下層から眺めた日本の荒廃はそろそろ限界だ。暴動、ライオットという事態になる前に、本書で語られている現実の一端が、しかるべき人に届くことを願っている。
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