『田中角栄と越山会の女王』
[著]大下英治
[発行]イースト・プレス
昭和三十八年度予算編成を前にした三十七年十一月上旬、大蔵省二階にある大蔵大臣室は、緊張した雰囲気に包まれていた。
大臣室のソファに座った石原周夫事務次官が身を乗り出し、田中におそるおそる言った。
「大臣、おわかりのこととは思いますが、大蔵大臣というのは、どんなことでも、いちおう反対するのが仕事というものです。歴代の大蔵大臣は、全員そうしてまいりました。それが通り相場ですから、反対しても不思議はありません。そのつもりで、ひとつ、よろしく」
しかし、田中は、断固として蹴った。
「わたしは政調会長になる以前から、積極派の田中と言われてきた。