『田中角栄と越山会の女王』
[著]大下英治
[発行]イースト・プレス
田中が首班指名を受けたその日、砂防会館にもどってきたのは、夕方のことであった。田中は、さすがに興奮していた。昭に言った。
「政治の流れを、変えるよ」
表情はいつも以上に紅潮している。意欲が、はち切れんばかりに漲っていた。
政治の流れを変える──。それは田中が、選挙に初めて出馬した昭和二十一年からの謳い文句であった。
田中が相談を持ちかけた。
「ところで、政務の秘書官は、誰にしたらいいだろう」
昭の頭に、すぐにひとりの男が浮かんだ。
「小長さんに、通産省を一時休んでもらってお願いしたら」
通産大臣秘書官の小長啓一は、これまで、政治家としての田中、通産大臣としての田中とのバランスをうまくとってくれた。