『田中角栄と越山会の女王』
[著]大下英治
[発行]イースト・プレス
竹下登が、昭和四十九年十月十日、砂防会館の田中事務所に顔を出した。
竹下は、昭に皮肉まじりに言った。
「なるほど、“淋しき女王”だわなぁ」
ニヤニヤしながら、昭の顔をのぞきこんでいる。昭は、竹下がなにを言っているのか、さっぱりわからなかった。
「なにを言っているのよ。気味が悪いわね」
が、竹下は、言葉をにごしたまま事務所から去っていった。その後、田中の秘書朝賀昭が、あわててやってきた。
「ママ、これを見ましたか」
「なによ、これ……」
朝賀が持ってきたのは、月刊『文藝春秋』十一月号であった。
「ここですよ」
めくられたページを見ると、昭は思わず眼を見開いた。『文藝春秋』では、立花隆の「田中角栄研究──その金脈と人脈」とともに、児玉隆也が、「淋しき越山会の女王」というタイトルで、昭の出生から権力ぶりまで詳細に書き立てていたのである。