『田中角栄と越山会の女王』
[著]大下英治
[発行]イースト・プレス
昭和六十年二月二十七日、時計は、すでに正午を過ぎていた。いつもならこの時間までに田中はやってくる。もし来ないときでも、かならず電話は入る。
「おい、なんかあるかい。今日は、目白にいるから、なにかあったら電話をくれよ」
その電話すらないのだ。五時半を過ぎたころ、目白事務所の秘書古藤昇司から電話が入った。ちょうど、創政会にくわわらなかった若手議員たちが、今後の対策を話し合っているところであった。
古藤はあわてていた。
「オヤジが、倒れた……」
昭子は、昨日まで元気だった田中が倒れるとは、思ってもみなかった。まったく実感がわかない。まわりには若手議員たちがいる。