『小池一夫のキャラクター創造論』
[著]小池一夫
[発行]ゴマブックス
光と闇、善と悪、聖と邪、天と地、美と醜……。
真逆で正反対の性質を持ち、対極に位置する存在。
たとえば、キリスト教で言えば、
神の子・キリストに対して、悪魔という存在があります。
悪魔はとても強大な力を持ち、キリストの邪魔をしますが、しかし、キリストと互角なのかというと、そうではない。
いくら悪魔が強くても、悪魔は決してキリストには勝てない。
邪悪な悪魔がどれだけ懸命にキリストの邪魔をしても、最終的には正しいキリストによって退けられる。
キリストの強さ、偉大さ、正しさを証明し、人々の心に強烈に印象づけるための格好の《引き立て役》。
永遠のナンバー2、それが「悪魔」なのです。
魅力的な《ナンバー2》を創る
海外、とくに欧米の作品には、この光と闇の対立構図が、よく出てきます。
ブルース・ウィリスとサミュエル・L・ジャクソンが出演している『アンブレイカブル』という映画があります。
『アンブレイカブル』は「壊れない者」という意味です。
サミュエル・L・ジャクソン演じるイライジャというキャラクターは、コミックショップのオーナーですが、生まれた時にすでに全身骨折していて、大人になるまで、かなりの年月を病院で過ごしました。
些細な事で病気やケガをして、入退院を繰り返す男。
どうして自分はこんなにすぐに「壊れる」のだろう、と悩んだイライジャは、この世には、自分と正反対の「壊れない男」がいるはずだ、と考えます。
そして、イライジャは壊れない男『アンブレイカブル』を探すために大きな事件を次々に起こし、ようやく見つけ出したのが「壊れない男」ディヴィッドです。
ブルース・ウィリス演じる主人公・ディヴィッドは元アメフト選手で、今は冴えないスタジアムの警備員なのですが、彼には実は秘密がある。
これまでに、一度も病気にかかったことがない。
そればかりか、どんな大事故に遭っても、ケガ一つしない。
何百人もの人が死ぬような、列車事故に遭遇しても、1人だけ、なぜか傷一つ負わないない男。
イライジャが探し求める壊れない男『アンブレイカブル』というのは、彼のことなんです。
彼自身は気づいていないんですが、彼はヒーローになるべき特別な力を持っている、ということなんですね。
「壊れる男」イライジャと、「壊れない男」ディヴィッドが対決する、というのがこの物語のあらすじです。
『シックス・センス』のナイト・シャマラン監督の作品ですので、ヒーローをテーマにしていながら、派手なアクション作品ではありません。
それを期待して観ると、予想と違うのですが、作中でコミックのコレクターであるイライジャが語るアメリカンコミックでの「ヒーロー論」は、まさに「キャラクター論」の核心を突いています。
アメコミのヒーローキャラクターの創作思想を知る上で、文字通り、教科書のような作品になっていますので、興味がある方はご覧になってみてください。
この『アンブレイカブル』のテーマになっている主役と敵役の関係性は、キャラクターを創る上で、とても役に立ちます。
主人公のヒーローは健全で、温かい心を持ち、人を救う。
ライバル、敵役は邪悪で、冷たい心を持ち、人に危害を加える。
この対立構図は、まさに光と闇、「神」と「悪魔」の構図です。
『アンブレイカブル』をはじめ、ハリウッドの多くのエンターテインメント作品が、この対立構造を持っています。
これは何も、神のごときスーパーヒーローと、悪魔のような強敵が戦う英雄神話のようなアクション大作を創る場合だけではありません。
日常を舞台にした、些細なドラマでも、この対立構造を導入するとわかりやすい。
第一章でもすこし言いましたが、主人公には《オーラ》と《弱点》をつける。
ライバルには《カリスマ性》と《欠点》をつける。
これが、キャラクター創りのポイントなのです。
それでは、これから詳しくお話しましょう。
(1)主人公には《オーラ》を、ライバルには《カリスマ性》をつけよう
《オーラ》というのは、その人の内面から溢れ出る、光かエネルギーのようなもの、と言ったらいいでしょうか。
何となくその人がいるだけで「温かみ」を感じたり、場が和んだりする。