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患者さんには絶対聞かせられない ナースのぶっちゃけ話
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エンタメ
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治療方針は袖の下で決まる

『患者さんには絶対聞かせられない ナースのぶっちゃけ話』
[著]みずさわじゅん [発行]彩図社


読了目安時間:6分
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 ドクターにはいろいろなタイプがいる。


 大学病院の安い給料で激務をこなしながら、明日の医療のために研究に励む真摯なドクターから、高給目当てに個人の大病院に勤務するドクター、離島や離村で現地の人々のために働くドクターや、親の後を継いで開業医となるドクターと様々だ。


 どんな環境で医療に従事したとしても、医師としてそれなりの理念や信念を持って患者の治療にあたってほしいと願っているが、中にはとんでもない強欲医師がいることも事実だ。


 以前、中規模の個人病院に勤めていた頃、看護師の間で“お代官”と陰口を叩かれているドクターがいた。


 仮にF医師と呼ぶことにしよう。F医師はその病院の副院長だった。しかし、経営者の一族ではなく雇われ医師である。噂によると年俸2000万円で契約していたらしい。看護師ではとてもじゃないが稼げる金額ではない。おまけに、患者や家族から定期的に袖の下をもらっていたのだから、その欲深さには舌を巻く。


 もちろん、周りに気付かれることがないように、渡すほうも受け取るほうも細心の注意を払っていただろう。


 しかし、それは患者の治療方針となって如実に表れていた。


 たとえば、毎日行われるはずの回診はごく一部の限られた患者にしか行われず、それ以外の患者は主治医であるにも関わらず、1週間に一度か二度しか診察しない。


 病状が悪化しても知らん顔で、看護師が「何とかしてください」と詰め寄って、ようやく点滴や内服の処方を、診察も検査もしないで指示を出して終わりなのだ。


 ところが、毎日診察している患者には、これまた毎日のように血液検査やCT検査、レントゲン検査と検査づくしで、必要ないと思われるような点滴や抗生物質、栄養補給用製剤、さらには(けっ)漿(しょう)製剤まで処方され、患者の周りは点滴のボトルが複数ぶら下がり、まるでシャンデリアのようになっていた。


 大量に体内に入った輸液は腎臓で処理しきれず、排泄できずにどんどん貯留して患者は水ぶくれ状態になる。そこで利尿剤を投入し、強引に尿にして排泄させる始末である。

「なんでこんなに対応がちがうんや?」

「絶対に、何かもらってるで」

「そりゃあ、これやろ」


 親指と人差し指でわっかを作る看護師たちが、賄賂疑惑の噂に明け暮れる。


 お代官と言われる所以(ゆえん)だ。


 しかし、このままでは治るはずの患者の病状が悪化することは目に見えており、それにも関わらず高額の医療費を請求される家族にも申し訳ない。


 そこで看護師数名が師長に現状を報告して、なんとかしてくれるようにと頼み込んだ。


 師長も報告を受けて、さすがにこれではいけないと院長に報告し、それを受けて院長が対処することを約束してくれた。F医師の休日に、院長自ら現状を見に来てカルテをチェックし、不要な点滴類は全て中止との指示を出してくれたので私たちもホッとした。


 とりあえず、F医師の受け持ち患者は暫定的に院長が主治医になり、院長とF医師とで話し合うことになった。院長が話のわかる人で本当によかったと思う。



 これで安心して仕事ができると看護師全員が胸を撫で下ろしたが、実は何も解決していなかった。


 翌日出勤してきたF医師は、カルテを見るなり顔色を変えてナースステーションを出ていった。午前中の回診も行わず、どうしたのかと勤務していた看護師全員が興味津々で待っていたのだが、F医師が病棟に戻ってきたのは昼休憩が終わった頃だった。


 しばらく動物園の熊のように、うろうろと狭いステーション内を歩き回っていたが、シャンデリア状態になっていた患者の息子がF医師との面談を申し出てくれたおかげで、私たちは(うっ)(とう)しい状況から解放された。


 やれやれと苦笑いしながら業務を継続していたのだが、突然廊下に響き渡った大音声に、その場にいた全員が一瞬顔を見合わせる。


 直後、一斉に現場に向かって駆け出した。


 病院の廊下は緊急時でも走ってはいけないことになっているが、そんなことに構っている暇はない。


 何が起きたのか早急に確認しなければならない。


 その声はF医師と面談しているはずの息子の声だ。


 声に驚いて廊下に出てきた患者たちの隙間を抜けて声のするほうへと走る。廊下の角を曲がってすぐに目に飛び込んできたのは、病室の前で睨みあうF医師と息子の姿だった。


 息子は鬼のような形相で肩を怒らせている。F医師はと見ると、苦虫を噛み潰したような表情で「病院の方針なので」と言い訳をしている。


 しかし、息子の怒りは収まらない。


 2人の周囲には駆けつけた看護師の他に、騒ぎを聞きつけてやってきた入院患者という名の野次馬が群がっている。


 そんな中で爆弾発言が飛び出した。

「あれだけ金をやったのに、これ以上治療できないってどういうことや!」


 一同唖然。

「A川さん、そのことはまた改めて……」


 焦ったのはF医師だ。

「何が改めて、や! 金だけやない。飯も食わせてやったやろ! 恩を仇で返すんか!」


 なんと、F医師の賄賂疑惑が事実であったことが、患者全員の前で暴露されてしまったのだ。

「なんやこの医者。袖の下もろとったんか」


 蔑むような患者の声に我に返った私たちは、「お部屋にもどってください」と声をかけながら、患者たちをその場から遠ざけた。

「A川さん、ここは病院の中ですから、大きな声は出さないでいただけませんか」


 先輩看護師が息子を落ち着かせようとするが「やかましい!」と一喝されてしまう。


 どうにも手が付けられない状態で、私は師長を呼びにナースステーションに走って帰り、先輩看護師たちはなんとかその場から息子を別の部屋に移動させようと尽力する。


 連絡を受けた師長と院長が駆けつけたときもまだ2人は睨みあったままだったが、さすがに院長にお願いされるとそれ以上暴言を吐くこともなく、息子はおとなしく院長についていった。


 F医師はというと、その日を限りに病棟に現れることなく、その月の末日をもって退職した。


 よりよい治療を受けたい、受けさせたいと願うのは当然のことだと思うが、袖の下を渡したからといって、必ずしもいい治療が受けられるとは限らない。


 まずは、信頼できるかかりつけ医を探すことが大切だと思う。

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