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患者さんには絶対聞かせられない ナースのぶっちゃけ話
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エンタメ
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深夜2時の来訪者

『患者さんには絶対聞かせられない ナースのぶっちゃけ話』
[著]みずさわじゅん [発行]彩図社


読了目安時間:5分
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 病院で働いていると、必ずスピリチュアルな話が出てくる。


 つまり、霊的現象の話だ。


 誰もいない病室でナースコールが鳴る、電源の入っていない心電図モニターに波形が出る、誰もいない廊下に足音が響くなどという話は、怪談話が好きな方なら一度は耳にしたことがあると思う。


 まだ、誰もいないところで起こることに関してはそれほど問題ないのだが、困るのは患者が寝ているところに出てこられることだ。


 認知症の患者であれば、精神状態が不安定となって幻覚を見たという可能性もあるのだが、意識がクリアな患者が訴えてくるものは、正直言って恐い。


 個室に入院していたお金持ちのおばあさんは、意識がクリアだった。重いリウマチのために歩けなくなり、身寄りもいなかったことから、やむをえず入院してきた患者だった。そのおばあさんが、実は見える人だったために困ったことが起きた。


 深夜2時頃になると必ずナースコールを押して、「この人に出ていってもらって」と訴えるのだ。


 初めてその訴えを聞いた看護師は、浮浪者が入り込んだのかと思ったそうだ。急いで病室に行ったが誰もいない。おばあさんに「どんな人がいましたか?」と尋ねたところ、

「そこにいてるでしょ」


 という答えが返ってきた。

「えっ?」

「あなた、見えないの? あなたの隣に立ってるでしょ」


 彼女は何度も見回したが、どこにも人影はなかった。


 おばあさんが入院していた個室には、トイレもシャワーもなく、洗面台と縦長のロッカーが置いてあるだけで、人が隠れるところはどこにもない。

「きっと、夢を見たんですね。誰もいませんからゆっくり休んでください」


 そう言って宥めようとしたが、おばあさんは「まだいる」と言って聞かなかった。


 次の日も、次の日も、同じ時間にナースコールを鳴らして、同じ訴えをする。そのたびに夜勤者は「大丈夫です」「誰もいません」と生返事をして帰ってきていた。

「そろそろボケてきたんとちがう?」

「ずっと個室で1人やもんなあ」

「年も年やしね」


 不気味な訴えにスタッフたちは、おばあさんが認知症になってきたから幻覚が見えるようになったんだと、半ば強引に決めて納得してしまった。


 そんなとき、ついに私に夜勤が回ってきた。

「ナースコール鳴るけど、適当にあしらっといたら大丈夫やから」


 という、人道的にどうかと思うようなアドバイスをもらって勤務に就いた。


 問題の午前2時を少し過ぎた頃、おばあさんの部屋からナースコールが鳴った。

「どうしましたか?」

「またや。また来た。早く出ていってもらって」


 必死におばあさんは訴えるが、私には何も見えない。仕方がないので本人に聞いてみた。

「あの、どこにいますか?」

「あんたも見えへんの? あんたの隣にいてるでしょ」

「隣ですか?」


 おばあさんが指をさしたのは、私の右側、ドアと反対側だった。それもすぐ近くを指している。なんとなく寒気を感じて鳥肌が立った。

「えっと……。こっちですか?」


 見えないけれど、自分の右側を指さした。

「そうや。そこにいてるでしょ。あんたを見てるやないの」

「えっ? 見てるんですか?」

「そうや。早く出て行ってもらって。毎晩毎晩、たまらんわ!」


 (かん)(しゃく)を起こして金切り声で叫ぶおばあさんを見て、このまま放っておくわけにはいかないとは思う。しかし、どうしたらいいのかも見当がつかない。しばらく考えて、私は自分の右側に向かって言った。

「すみませんが、患者さんが眠れませんので、出ていってもらえますか?」


 丁寧に頭まで下げてお願いしたのだ。顔を上げておばあさんを見ると、何かを目で追っている。その視線はドアのほうまで追いかけていた。

「やっと出て行ったわ」

「あの、出て行かれたんですか?」

「あんたの前を通って出て行ったでしょう。見てないの?」

「すみません。見てませんでした」


 本当は「見えませんでした」なのだが、これ以上その部屋にいたくなかった私は適当に話を合わせておいた。

「では、ゆっくり休んでくださいね」


 出て行こうとした私に、おばあさんは、

「ありがとう。追い出してくれて。これでゆっくり寝られるわ」


 と、お礼を言ってくれた。


 その日から、おばあさんは「誰かいてる」コールをしなくなった。時々ナースコールが鳴ることがあっても、足が痛いから痛み止めがほしいという程度の訴えだった。


 後日、夜中にやってくる人について、おばあさんに聞いてみた。

「見たことない人やった。おじいさんで、私と一緒くらいかな?」

「名前は聞かなかったんですか?」

「聞いたよ。T田って言ってた」

「そのお名前の人、知り合いの方にいらっしゃらないんですか?」

「いてないなあ……」

「……恐くなかったですか?」

「恐いことはないけど、気色悪いやろ。なんか話しかけてきはるし。寝られへんやんか」

「そうですね。でも、来なくなって良かったですね」

「ほんまや」


 おばあさんは決して認知症になったわけではなかった。ただ、私の知る限り、以前にその部屋で亡くなった患者に、T田さんはいなかった。


 もしいたら、私は話の途中で走って逃げ出していただろう。

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