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「新」怪奇現象41の真相
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エンタメ
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 36 マンチェスター博物館の動くエジプト像

『「新」怪奇現象41の真相』
[著]ASIOS [発行]彩図社


読了目安時間:7分
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【世界中のメディアが報じた正体不明の怪奇現象】



 伝説


 2013年6月、英国のマンチェスター博物館に展示されていた古代エジプトの彫像が勝手に回転を始めた、と世界中のメディアが一斉に報じた。動いたのは、紀元前1800年頃に作られた、高さ25センチほどのオシリスの立像(※①)。それが急に数週間ほど前から、陳列ケースの中で自ら回転するようになったというのだ。


 いくらマンチェスター大学付属の博物館が発表したネタとはいえ、単なる話だけでは真っ当なメディアがそうそう大きく報じるわけはなかった。この話が世界的なニュースとして広がったのは、博物館が同時に公表した動画によるインパクトが大きかった。


 博物館側は単なるホラ話ではないことの証拠として、展示室に設置した監視カメラで撮影した映像を公表したのだ。数日にわたって撮られたその動画には、像がゆっくりと自ら回転し、180度向きを変える姿がはっきりと映しだされていた。回転しているのはこの彫像だけで、一緒に展示されている他の像に動きは全く見られなかった。


 鍵がかかったガラスケースの中で、手も触れずに自らゆっくりと像が回転しだす映像を見て「ファラオの呪い(※②)」ではないかとか、霊的な力が働いているのではないか、といった声があがっている。





 真相

「回転する彫像の謎が解けた」という報道が、世界のニュースサイトを再び駆け巡ったのは、事件の第一報が報じられてから約5ヶ月後の2013年11月のことだった。


 像が自ら回転するという怪奇現象の種明かしは、周囲から伝わる振動にあった。博物館を訪れる観光客らが近くを歩きまわる際の振動がガラスケースの中へと伝わり、その微妙な揺れによって像が回転していたのだと結論付けられた。日本風にいえば「紙相撲」のような現象が起きていたわけである。紙でできた力士を土俵に乗せ、その側をトントンと叩くと、あたかも相撲をとっているかのように紙の人形が動きまわる、あの現象と同じことが博物館の展示ケースの中で起きていたのだ。


 だが事件発覚から5ヶ月間も待たなくても、最初の映像が発表された時点で、この結論はほぼ明らかだった。出所不明の怪しいUFO映像などと違い、博物館が自ら撮影して公表した動画なので、CGやデッチ上げといった可能性はほぼなかった。となると、なんらかの物理的原因によって回転していたことは明らかだった。


 それに動画は数日間にわたって撮影されていたが、夜になって博物館が閉鎖されると、像は常に回転を止めていた。明るくなってまた周囲を人々が歩き回り始めると回転を始めるので、日中の人の動きと何らかの関係があることは一目瞭然だった。


 実は、博物館の展示品が勝手に「歩き回る」という現象は、博物館業界ではそうレアなことではない。たとえば、米国ノースカロライナ州の博物館「ガストンカウンティ・ミュージアム」のホームページには、展示する際に気をつける点として、「地下鉄や列車や建物などから伝わる通常の振動によって展示物が『歩き回ってしまう』ことがないよう、展示物の底面にはソフトワックスを塗っておくとよい」と書かれている。ツルツルしたガラス面の上に硬い物体をおけば、振動によって位置が少しづつずれていっても不思議はない。


 また超常現象懐疑派として、この事件で最も印象深かったことは、事件が公表されてから解決案が出されるまでの期間が異様に短かったということだ。地元の「マンチェスター・イブニングニュース」が、この怪奇事件を報じたのが6月22日。だが早くも翌日の23日に「日中の振動によって回転している」という正解を、英国の懐疑主義者がネットにアップしていた。つまり動く像の謎は、実質1日しかもたなかった(※④)のである。ご丁寧にも、簡単な彫像のモデルを作成し、振動を与えると自然に回転するということを実証してみせる動画までがその日のうちにYouTubeに公開されていた。




 ちなみに、日本超心理学会の初代会長を務めた心理学者の小熊虎之助(※⑥)が大正13年に出版した名著『心霊現象の科学』には、「仏壇に飾られてある前妻の位牌が、一夜を経るといつも後向きに変ってしまうために、後妻はついに心労の結果死亡」してしまった、という逸話が紹介されている。


 こちらも「主人が不思議に思って終夜位牌を観察していたら、隣家の米()きの夜業のその響に応じて位牌が半回転することをついに発見した」というのが話しのオチだ。小熊は「落語の材料にされている話」だと明かしているものの、振動によって動くはずのないものが動き出し、怪奇現象だとみんなが騒ぎ出すという騒動は英国の博物館に限らず、日本でも昔からあったことのようである。

(皆神龍太郎)




   ■参考資料:


    「Video: The curse of the spinning statue at Manchester Museum」(http://www.manchestereveningnews.co.uk/news/greater-manchester-news/video-curse-spinning-statue-manchester-4698583)


    「Solved: Mystery of the ancient spinning statue at Manchester Museum-with video」(http://www.manchestereveningnews.co.uk/news/greater-manchester-news/manchester-museums-ancient-spinning-statue-6325627)


    Mick West「Debunked: Ancient Egyptian Statue Rotating by Itself in Manchester Museum」(https://www.metabunk.org/debunked-ancient-egyptian-statue-rotating-by-itself-in-manchester-museum.t1838/)


    Rotating Statue Debunked(https://www.youtube.com/watch?v=mRnoDb8tmkM)



※①オシリスの立像

オシリスは古代エジプト神話に登場する神。この立像はエジプトの陵墓で1933年にミイラと共に発見され、80年ほど前からこの博物館に所蔵されていた。


※②ファラオの呪い

1922年にエジプト王家の谷で、ツタンカーメンの墓の入り口を発見したハワード・カーターの考古学調査隊が呪いによって次々と不審死を遂げたというもの。実際には発掘に関わった人々が早死したという事実はない。


※③画像の出典

「Video: The curse of the sp-inning statue at Manchester Museum」(http://www.manchestereveningnews.co.uk/news/greater-manchester-news/video-curse-spinning-statue-manchester-4698583)より引用。


※④実質1日しかもたなかった

不特定多数の人々がネットでつながり、寄ってたかって謎解きに挑む「集合知」の世界となり、新たなオカルト現象が生まれても伝説へと育つ猶予を与えず、アッという間に撃ち落されてしまう時代になった、ということを強く実感させられた事件であった。


※⑤画像の出典

「Rotating Statue Debunked」(https://www.youtube.com/watch?v=mRnoDb8tmkM)より。


※⑥小熊虎之助

(1888~1978)

超心理学者。心霊現象の科学的解明に取り組んだ。1968年に日本超心理学会が創設されると、その初代会長に就任。主な著書に『夢の心理』『心霊現象の科学』などがある。


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