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今日からワーキングプアになった 底辺労働にあえぐ34人の素顔
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ルポ・エッセイ
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免許と一緒に仕事をなくした

『今日からワーキングプアになった 底辺労働にあえぐ34人の素顔』
[著]増田明利 [発行]彩図社


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  稲垣文則(42歳)


  出身/富山県魚津市 最終学歴/高校卒


  現在の居住地/東京都北区 居住形態/社員寮


  職業/警備員 収入/月収約18万円


  家庭状況/独身


「一昨年の暮れ(12年)まではトラックの運転手をしていたんですが追突事故を起こしてしまいまして。運転免許が取り消しになり欠格1年の行政処分になりました。ハンドルを握れない運転手が会社にいられるわけないでしょ。『辞めてくれ』の一言で失業しちゃったよ


 稲垣さんは高校卒業後に地元の企業に就職。20歳のときに運転免許を取得し、その2年後にトラックドライバーに転身したという。28歳で大型免許を取得して上京、都内の貨物運送会社に転職し定期便の運行を担当していた。

「積荷は生鮮食品が主で北海道から九州まで全国をくまなく回っていました」


 大型車の運転手になった当初は羽振りがよく、月収45万円以上は珍しいことではなかった。ところが小泉内閣で断行された規制緩和でそれは長く続かなかった。運送業が免許制から届出制になると新規で参入する業者が急増、結果としてダンピング合戦になり、仕事はきつくなるのに賃金は抑えられるという状態に陥っていったという。

「長距離にしろ短距離にしろまったく休めなかった。運転だけではなく荷積み、荷下ろしもやるから尚更です。睡眠時間は4、5時間でしたね」


 栄養ドリンクを飲んでも連続10時間も運転していたら疲労が蓄積され、運転中に目を開けていられなくなる。自分でも「事故を起こすのでは」という不安を抱えながらハンドルを握っていたそうだ。

実際に追突事故を起こしたのは12年の師走でした。居眠り運転が原因で前のワゴン車にぶつけちゃったんだ


 死亡事故には至らなかったが相手の車は大破、稲垣さんも胸部打撲と頸椎捻挫で全治4週間の怪我だった。

「過積載とスピード違反、駐禁で反則キップを切られていましてね。そこへ重大事故を起こしたものだから起訴されて罰金刑を食らいました。累積の減点も15点を遙かにオーバーです。免許取り消しで欠格1年ということになったわけ」


 事故の後始末はすべて会社が処理してくれたがこれで失業した。このとき40歳。

「失業手当を受けながら職探ししたけど駄目だったな。資格や特技なんてないしね、運転免許も失っていては適当な仕事なんてありませんよ。工場の派遣か警備、飲食店、清掃業。さもなくば介護関係。40歳のおっさんじゃこんなものだよ」


 派遣はやる気がなかったし清掃や介護は性に合わない。消去法で警備を選択したが労働条件は良くない。

「給料は日給月給制だし社員寮もボロアパートだものな。社会保険には加入できているけど」


 賃金は日勤7500円、夜勤8000円。日勤と夜勤を5日ごとに交替で担当し1ヶ月の勤務日数は2425日。休みは不定期だ。

「月収だと1819万円といったところかな。社会保険料と寮費(水道光熱費込み)4万円を引かれると手取り11万円台。かなり低いよな」


 日給制で働いていると不測の事態で勤務が飛ぶことがある。そうなると大減収だ。

先月は2週続けて台風が来ただろ、工事現場に交通誘導で派遣されていたけど工事そのものを中止するから来なくいいってわけ。4日働かなかったから今月の振込額は8万4000円だった」


 年末年始、ゴールデンウィーク、お盆の頃も出勤日数が2~4日減るので収入も減る。普通の勤め人は休日が多いと旅行や遊びに行こうかと楽しいだろうが稲垣さんにとっては恐怖だ。

「生活はケチに徹するしかないね。このところはインスタントラーメンばっか食ってる」


 朝と夜は基本的に自炊するようにしているが1日の食費は米代を除いて500円以内と決めている。食料品の値上がりが続いているのでやり繰りが大変だ。

インスタントラーメンも日清とか明星のものは特売でも5袋398円、だから100円ショップで売っている2袋100円のやつだけなんだ


 具材はカット野菜とゆで玉子だけ。スープは半分くらい残して冷凍庫で保存する。3回分溜まると解凍して鍋に移し、冷飯を入れて雑炊にする。味噌ラーメンのスープはお勧めでとろけるチーズを加えるとリゾット風になるのだ。

「服はシーズンの終わりに古着屋で揃えます。秋に夏物、春に冬物の処分品を買い、タンスで寝かして次のシーズンに着るんです。去年の春に買ったダウンジャケットは1800円だった。クリーニング代より安いからひと冬で使い捨てても惜しくないだろ」


 こうやって無駄なお金を遣わないように心掛けているが給料日の3日前頃になると財布の中身が2万円を切るようなこともある。

「ずっとトラックをやっていたのでそこそこの貯金はあるけど、これは本当に虎の子だから手を付けたくない。生活費は収入の範囲で賄えるようにしています」


 それでも時々「俺は何が楽しくてこんな暮らしをしているんだ」と馬鹿らしく思うこともある。東京に行けば面白いこと、楽しいことが沢山あると思っていたが辛いことの方が多かった。

唯一の救いは結婚していないことだな。扶養家族がいたら目も当てられないでしょ」


 追突事故を起こしたあとは運転することが怖くなったが、耐乏生活を続けるのも疲れてきた。欠格期間は明けたのでもう一度運転免許を取得し、運送業に戻ることも考え始めている。

「駅のラックに置いてある求人誌を見たら4トン車のドライバーでも月25万円以上の給料なんだな。こんな犬小屋みたいなボロ家にいるのも嫌だし」


 郷里には実家もあり両親もまだ健在。可能なら地元に戻って運転の仕事を見つけたい。

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