『ニュートリノ』
[著]多田将
[発行]イースト・プレス
次に、粒子と反粒子をくっつけてみるとどうなるかを考えてみましょう。単純に数式通りであれば、と
とを足すのですから、
(+m) + (−m) = 0
となります。では現実の粒子の世界では、となると──まさにこの数式の通り、粒子も反粒子も実際に消滅してしまうのです。零になるには、数も同じの粒子・反粒子のペアでなければなりませんから、ペアで消滅するという意味で、「対消滅」と呼ばれています。
粒子としては確かに消えてなくなるのですが、エネルギー保存則はここでも守られねばなりません。例えば電子と陽電子が対消滅する際には、後には、両者の持っていたエネルギーを足したエネルギーが残ります。このエネルギーは、光として現われます。
(−e) + (+e) →
このときの光(γ)のエネルギーは、反応前の電子と陽電子のエネルギーの和、両者の運動エネルギーが零の場合だと、両者の質量の和、1Mとなります。
(エレクトロン・ボルト)は素粒子物理学でよく用いられるエネルギーの単位で、1 eV〜1.6 ×10
J(ジュール)です。
電子と陽電子のペアが対消滅した際のエネルギーは、このように、1.6 ×10Jとちぃさなものですが、これは電子ひとつがちぃさいからであって、我々が普段扱っている世界のサイズにすると話は全く違ってきます。
例えば1gの電子と1gの陽電子を反応させたとすると、電子はひとつあたり9×10㎏ですから、1gの電子だと、1×10
個となり、これに先程の1ペアあたりのエネルギーを掛け合わせると、実に200TJものエネルギーとなるのです。これは、例えば広島に投下された原子爆弾の3発分もの威力です! SFの世界で「反物質爆弾」なるものがよく登場するのも、この巨大な威力を買ってのことなのです。もっとも、現在の技術では、1gもの反物質をつくるには途方もない時間とお金が必要で、とても実用的なものではありませんが。