『ニュートリノ』
[著]多田将
[発行]イースト・プレス
さて、波と言えば、世の中にはたくさん溢れていますが、例えばここでは楽器の音で考えてみましょう。皆さんは、同じ高さ(同じ波長)の音であっても、ギターの音とピアノの音を聴き分けられますよね。それはなぜかというと、音色(波形)が違うからです。
図45は、ギターとピアノの同じ音の高さ(440)での波形ですが、随分違いますね。なぜこれほどまでに異なるのかというと、簡単に言えば音を出している楽器の形状が異なるからです。ギターもピアノも同じ鉄の線を振動させて音を出しているものの、それを反響させているボディの形状が大きく異なるために、鉄線の長さによって決まる基本周波数の波以外に、ボディの振動がつくり出す様々な周波数の波が重なり合って、全体として複雑な形状の波形となっているのです(また、鉄線自体も、基本周波数だけで振動しているわけではありません)。模式化すると、図46のように、基本的な波形の複数の波が重なり合って、ギターやピアノの音をつくり出しているというわけです。ギターとピアノで波形が異なるのは、これらの基本的な波が重なる際の割合が異なるからです。
しかし、これは波形を分析する装置を使えば分離することはできますが、実際に我々が耳にする音は、あくまでも、ギターの音やピアノの音であって、ギターのどの部分が振動している音か、などと分けて聴いているわけではありません。素粒子も、複数の波が重ね合わさっているからといって、複数の粒子から出来ているわけではなく、重なり合った結果出来上がった合成波だけが、我々が観測できる粒子となるのです。