『ニュートリノ』
[著]多田将
[発行]イースト・プレス
僕が高エネルギー加速器研究機構に着任し、ニュートリノグループ(T2Kグループ)に所属したのは、2004年のことで、その年に行われたコラボレイションミーティング(T2K実験のメンバーが集まる国際会議)にて、梶田先生に初めて御逢いしました。そのとき僕に紹介して下さった高エネ研の先輩は、「梶田先生はいつノーベル賞を取ってもおかしくない人だよ」と仰っていましたが、その人はとても口が巧い人ですので、僕的には、「またまた」という感じだったのですが、それが現実になったのでした。
読者の皆さんは御存じないかもしれませんが、日本は伝統的に素粒子物理学の分野では世界最高峰に君臨し、特にニュートリノの研究では、常に世界をリードする立場でありました。この研究に於いては、梶田先生の受賞に先立つ2002年に、小柴先生がノーベル物理学賞を受賞されていますから、ニュートリノ研究で立て続けに受賞している、という印象を持たれている読者の方もおられるのではないでしょうか。
実は、この御二人の間に、決して忘れてはならない、偉大なニュートリノ研究の物理学者がおられました。戸塚洋二先生です。戸塚先生も「いつノーベル賞を取ってもおかしくない」と言われる業績を残されたのですが、残念なことに2008年に永眠され、そのために受賞はなりませんでした。
戸塚先生は、僕が着任した際の高エネ研の機構長で、僕に初めて声を掛けて下さった際の言葉が、「君は、いつもブーツを履いているな」で、僕は心の中で「金髪でなく、そっちかよ!」と突っ込んだ思い出があります。
本書は、誰よりも、その戸塚先生に捧げたいと思います。
本書を執筆するにあたり、今回は直接御逢いしてまでいろいろ注文をつけさせていただいたにも拘わらず、にこにこしながら何度も描き直しをして下さったイラストレーターの上路ナオ子さん、僕が締め切りを大幅に過ぎて原稿を出してしまったために多大な御迷惑を御掛けした校正の平本さん(ペーパーハウス)とDTPの松井さん、そして何よりも、御子様が生まれて子育てが大変なこのときに、いつもにも増して全然執筆しない僕のせいで途轍もなく大変な思いをさせてしまったにも拘わらず、全力で本書を素晴らしい本に仕上げて下さった、編集の高良さんに、深く、深く感謝致します。
誠に有難う御座いました。