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ザ・ビートルズ 解散の真実
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輝かしいデビュー

『ザ・ビートルズ 解散の真実』
[著]ピーター・ドゲット [訳]奥田祐士 [発行]イースト・プレス


読了目安時間:4分
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 一九六八年の夏は、政治的な理想と傷ついた夢の季節だった。チェコスロヴァキアでは硬直化した共産党政権がよりリベラルなマルクス主義の政府と交代し、国民ははじめて、鉄のカーテンの向こう側にしか存在しない、自由というエキゾティックな味をためそうとしていた。シカゴでは、大統領に抗議すればヴェトナムでの紛争を終結できると言わんばかりに、反戦運動が各地に散らばっていたエネルギーを民主党大会に集約させた。


 ところが八月の末になると、ソ連の戦車隊がチェコスロヴァキアの「人間の顔をした社会主義」を一掃し、シカゴの警察は会場の外で、デモの参加者たちを警棒で殴り倒していた。その春、一時はパリを制覇する勢いだったフランスのストライキ参加者と学生たちの連合と同様、西側と東側の聖戦は裏切りと絶望の中で幕を閉じた。


 ビートルズのアップルも、それと同じ希望や幻想から生まれたものだった。「もしわれわれの夢がひとつでも実現したら、全力で護ってやるつもりだった」とデレク・テイラーは回想している。「利益を出したくてやってることじゃない」とその夏、マッカートニーのスポークスマンを務めるバリー・マイルズは主張した。「ビートルズの上げた利益はまずスタッフのところに行き、それから貧しい人々に回されるからだ」。たとえアップルがEMIという多国籍企業の関連会社だとしても、「生産手段を掌握した労働者の代表になる」ことはできる、と彼はつづけた。アップル・ブティックを閉鎖し、商品をただで配るという、ビートルズが七月に下した決断も、彼らの意図の純粋さを裏書きしているように思えた。


 だが閉店は政治的な意思表示ではなく、あくまでもビジネス的な動きだった。そしてそれはグループが、商業的な現実との折り合いに苦労していることを示唆していた。「全員にそれぞれの自治権があった」とテイラーは語っている。「そしてそのどれもが金食い虫だった」


 そうした不安をすべて覆い隠したのが、アップル・レコードの目覚ましいデビューだった。〈ヘイ・ジュード〉と〈悲しき天使〉によって、この会社ははやばやと成功を約束されていたが、アップルのプランは主流的なポップ音楽の、はるか先にまでおよんでいた。彼らは「使い捨てレコード」という先駆け的なシリーズ──時代のアイコン的な人物による朗読やスピーチを廉価で提供する、ペーパーバックのオーディオ版──の立ち上げをもくろんでいた。ビートルズの会話を収めたアルバムもありうるだろう、と同社は発表した。


 マッカートニーとハリスンはアップルを真の意味で海を越えた企業にするために、一年の半分をカリフォルニアで過ごすつもりでいた。世界的な企業であることの証しとして、アップルはアパルトヘイトの横行する南アフリカにもライセンス契約で子会社を設け、メアリー・ホプキンのヒット曲をアフリカーンス語に翻訳して、現地のシンガーにうたわせた。この件はアップルの政治的な評判に傷がつくことを避けるために、母国ではおおやけにされなかった。


 それよりもはるかにダメージが大きかったのが、レノンとオノの不倫に対する一般の反応だった。平和のためのジェスチャーとして、見つけた人は返事をくださいと記された葉書をつけた何十個もの風船を空に飛ばしたとき、このふたりは人種差別的な発言の数々を浴びせられて愕然となった。それでもビートルズというグループには、いまだに多大な好意が寄せられていた。


 確かにアニメーション映画の『イエロー・サブマリン』は、広く批判を浴びたかもしれない(イギリスのある新聞は、「露出過多の四人組」による「失敗作」と酷評していた)。だが〈ヘイ・ジュード〉のリリースは、グループが音楽とおたがいに対して、かつてなく本気になっていることを示唆していた。次第に盛り上がるコーラスをフィーチャーしたマッカートニーの曲は、西洋の若者たちのあいだで広まりつつあった、政治的敗北にも自分たちの団結は揺るがないという信念をみごとにとらえきっていた。


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