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ザ・ビートルズ 解散の真実
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最新の窮地

『ザ・ビートルズ 解散の真実』
[著]ピーター・ドゲット [訳]奥田祐士 [発行]イースト・プレス


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 当のビートルたちも、決してその夢を実現できていたわけではない。一か月後にレノンは希望をこめて、こう語っていた。「この最後の訴訟に片がついたら、もうこういうのとはおさらばできるだろう。なんでこういうことになるのか、オレにはさっぱりわからない。なにしろさっきまで喋ってた相手に、いきなり訴えられてたりするんだ」


 彼はビジネス社会の本能的な強欲さと、それに負けず劣らず先天的な、自分自身のナイーヴさを勘定に入れていなかった。心の底ではレノンはまだ、自分がなにかを望めば、なんの後くされもなく実現すると思っていた。名声という海で一二年間も泳ぎつづけてきたというのに、彼はいまだに自分の身体が濡れると驚いていたのだ。


 惨事を逃れて大惨事に足を踏み入れる、彼のほとんど超自然的な才能は、アルバム《ロックン・ロール(Rock'n'Roll)》をめぐる悲惨な物語でも明らかにされている。この物語にはあちこちに、無邪気さがちりばめられていた。一九六九年にレノンは、過激な政治活動家、ティモシー・リアリーのキャンペーン・ソングを書いてほしいと頼まれた。代わりに彼はそのアイデアとタイトルを拝借して、ビートルズに提供した最後の傑作〈カム・トゥゲザー〉に仕立て上げた。


 歌詞を触発したのはチャック・ベリーによる対句で、レノンはそれを意識的に借用した。彼としては盗用というより、ヨーコ・オノがいたフルクサス・グループの伝統に沿った、芸術的なオマージュのつもりだった。だが音楽出版業者にとっては、芸術を評価することよりも、金勘定をすることのほうがはるかに簡単だったため、レノンは盗作で起訴された。


 そのあとには混乱を極めたフィル・スペクターとのプロジェクトがつづき、レノンは《心の壁、愛の橋》でも、ビッグ・セヴン・ミュージックの管理曲を三曲収録するという和解の条件を満たすことができなかった。しかし一九七四年一〇月に取り急ぎおこなったセッションで、彼はようやく義務を履行できたかに見えた。


 何度も救世主に身を委ねては、毎回のように床に取り落とされ、失望を味わってきたにもかかわらず、レノンは依然として、一緒にいて楽しかった人間は自動的に自分の友だちだと思っていた。もしアレン・クラインがついていたら、レノンがこの最新の窮地に陥ることもなかっただろう。クラインはひと目で悪党を見抜けたからだ。だがビッグ・セヴン・ミュージックの現所有者、モーリス・レヴィに出会ったとき、レノンはすっかり心を奪われてしまった。


 アメリカ産のスリラーを観て育ったイギリス人の例にもれず、レノンもジミー・キャグニーやエドワード・G・ロビンスンを連想させる人物には、ころりと参ってしまうきらいがあった。レヴィはまさしくそんな男だった。若い才能を食いものにして、著作権はかならず自分のポケットに収まるようにしてきた音楽業界の古典的なならず者。彼はティン・パン・アレーやブリル・ビルディングの逸話を山のように知っていた。そしてレノンは、話のうまい人間にひどく弱かった。ビッグ・セヴンの一件の落としどころについて話し合うために、レノンとレヴィが会見したとき、ミュージシャンはそこにいるのが官僚ではなく、傑物(キャラクター)だと知って胸を躍らせた。


 というわけで、ニューヨークのアップステートにある自分の農場を《ロックン・ロール》セッションのリハーサル用に使ってはどうか、とレヴィに持ちかけられると、レノンは一も二もなく受け入れた。そして七〇年代のなかばにレコードを売る最適の方法は、TVの広告を使った通信販売だとレヴィに吹きこまれると、自分でもためしてみることに合意した。


 レノンは決して、アップルやEMIに知らせるべきだとは思わなかった。なんといっても彼は、契約担当の弁護士ではなかったからだ。単純に彼は、ビッグ・セヴンとの約束を履行したことの証しとして、《ロックン・ロール》のラフ・ミックスをレヴィに渡し、そのままのほほんとしていた。


 しかしレヴィはレノンの言葉を額面通りに受け取り、合法性については後で考えることにした。少なくとも彼の知る限り、レノンはニュー・アルバムをTVで宣伝してほしいと言っていたので、レヴィはあたかも一九五五年当時のように、その仕事に取りかかった。そんな彼の目に映るレノンは、ロイヤルティ[「王族」と「印税」の意味がある]と言われるとイギリスのお城を思い浮かべる、たまたま曲を書いてきた小僧っ子のひとりにすぎなかった。


 レヴィは一月の末までに安っぽいアルバム・ジャケットをでっち上げ、TV‐CMの時間を押さえた。クラインは依然としてレノンを訴え、レノンに訴えられていた。しかし彼は友情と仕事を分けて考える男だったので、レノンにレヴィが準備を進めている広告キャンペーンのことを知っているかと訊ねた。この期におよんでレノンはようやく、新しいアルバムの音を、業界一悪名高い無法者の手に渡してしまったかもしれない、と自分のレコード会社に伝えた。


 イギリスでならレヴィの販路を閉ざすのは簡単だったかもしれない。だがアメリカでは時間がかかり、その間にレヴィは《ルーツ(Roots)》と勝手に改題したアルバムを売り出すことができた。キャピトルは即座に停止命令を出し、正規盤の発売を数週間早めたが、そのあおりでレノンが書いた長文のライナー・ノーツは、未掲載に終わってしまう。


 皮肉なことに彼の文章には、難産だったアルバムの成立過程に皮肉っぽく触れた部分もあった。「この長い(ロング・)巻き戻し(アンワインディング)の裏話は、音楽業界におけるサイコドラマの調査をおこなう、議会の委員会によって明かされるだろう。ただしそれは、感謝のために沈黙する期間をへてからのことだ」


 そして今、レノンが守り抜く決意を固めていたのは、その沈黙の期間だった。ようやく自分が契約書に署名すると、そのたびに訴訟に巻きこまれてしまうことに気づいた彼は、契約による縛りをすべて断ち切り、なりゆきを見ることにしたのである。


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