『ザ・ビートルズ 解散の真実』
[著]ピーター・ドゲット
[訳]奥田祐士
[発行]イースト・プレス
リチャード・スターキーに、そういうはっきりとした役割はなかった。ビートルズの解散後、二〇年にわたってアルコールとドラッグの靄の中に安穏としてきた彼の生活は今や、素面さを保つための努力と、習慣となった仕事で埋まっていた。「オレはようやく、ずっと嫌っていた連中とおんなじになれたんだ!」と彼は一九九〇年に、友人のひとりに冗談を飛ばしている。
そこにはもっと暗い側面もあった。彼にとっては大いに喜ばしいことに、ビートルズが再結成を遂げ、けれどもまた解散してしまった今、上出来だが刺激のない復帰第二弾、第三弾のアルバムが大衆に広く無視されてしまった今、ウィリー・ネルソン、マール・ハガードと結成する予定だった「スーパーグループ」が実現せずに終わった今、新たなレコード・レーベル(パンプキンヘッド・レコード)を設立し、だがこれといった実績を残せずにいる今、五代目、六代目のオール・スター・バンドが、前回のツアーと同じ会場を満員にしている今、その先にはいったいなにが残されているのだろう?