『ザ・ビートルズ 解散の真実』
[著]ピーター・ドゲット
[訳]奥田祐士
[発行]イースト・プレス
アップルの重役室内で起こったクーデターには、悲劇的な余波があった。ニール・アスピノールは自伝執筆のプランを、楽しげに友人たちに語っていた。だがアップルを離れた直後、彼は自分が重い病に冒されていることを知る。アスピノールは二〇〇八年三月二四日に、ニューヨークのメモリアル・スローン・ケタリング癌センターで死亡した。
最後にアスピノールを見舞ったひとりがポール・マッカートニーで、治療費も彼が負担したと伝えられている。二週間後、トウィッケナムにある自宅の近くで、アスピノールの追悼式が営まれた。生き残ったふたりのビートルは、どちらも姿を見せなかった。ステラとジェームズ・マッカートニーが父親の代わりに列席し、バーバラ・バックがリチャード・スターキーの代役を務めた。アスピノールのかつての仇敵、アレン・クラインも、それから一年と少したった二〇〇九年七月に亡くなった。
アスピノールの死とともに、ビートルズと、六〇年代を通じて彼らを導いてきた結束の固い組織とのつながりは、ついに完全に絶たれてしまう。サー・ジョージ・マーティンは隠退生活を満喫し、ビートルズとその遺産を護ってきた彼以外の男たち──ブライアン・エプスタイン、ニール・アスピノール、デレク・テイラー──は、いずれもこの世を去っていた。
彼らに取って代わったのは、公認会計士、エンタテインメントと著作権専門の弁護士、マネジメント・コンサルタント、妻、そして子どもたち──中でも絶えず存在感を発揮し、不死身ではないかとすら思えるヨーコ・オノは、ビートルズを二一世紀のずっと先まで引っぱっていきそうな勢いだった。
マッカートニー、スターキー、オノ、そしてオリヴィア・ハリスンは今や、想像を絶するほど入り組んだ金融帝国をコントロールしていた。毎年、弁護士と会計士たちは彼らに、税負担を相互担保差入し、財源をひとつの管轄区域から別の区域に移すために、新しい会社を設立するようアドヴァイスしていた。それもすべて、帝国を維持し、彼らの富を念入りに保護するためだった。
だがときおり、ビートルズがかつてはポップ・グループだったことを、だれかが思い出すこともあった──喜びと、欲情と、動物的な興奮で燃え立ち、六〇年代の末には、世界を自分たちのイメージ通りに作り替えることができると信じていたグループだったことを。ジョン・レノンが予言したように、今や夢は終わっていた。そして金は依然として、彼らに満足感や愛を保証してくれなかった。