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アレックス・ファーガソン自伝
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第16章 群雄割拠

『アレックス・ファーガソン自伝』
[著]アレックス・ファーガソン [訳]小林玲子 [発行]日本文芸社


読了目安時間:33分
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 1991年にマンチェスター・ユナイテッドが公開会社になった瞬間から、いずれ個人オーナーに買収されることはわかっていた。ブリティッシュ・スカイ・ブロードキャスティングのルパート・マードックが最大の株主だったが、2003年からマルコム・グレイザーが株式買収を始めた。これほどの歴史と影響力を誇るクラブに、個人投資家が目をつけないわけがない。唯一意外だったのはグレイザー・ファミリーが乗り込んでくるまで、裕福な求婚者が列をなしていなかったことだ。


 グレイザー・ファミリーの支配が確立すると、ユナイテッドのファンクラブ代表のアンディ・ウォルシュが電話をかけてきた。「退任なさるしかありませんよ」。ウォルシュは私の友人だが、その言葉に従う気はまったくなかった。私はあくまで監督であって、役員ではないし、クラブを手放した株主の一人でもない。買収は私の力の及ばないところで起きた。


「あなたのことは我々全員で守ります」と、ウォルシュ。私は答えた。「それはいいが、コーチングスタッフはどうなるんだ?」私が退任したらすぐさま、スタッフも全員職を解かれていただろう。二十年を共にしたスタッフもいた。監督が引退したとき、周りに及ぶ影響は、外部の人間にはなかなかわからないものだ。


 落ち着かない時期だったことは確かだ。私が心配していたことの一つは、チームに投資する金がどれくらいあるかという点だった。いい選手を発見する自分の眼力と、クラブの組織力を信じるしかなかった。彼らも最初からよくわかっていたが、グレイザー・ファミリーが買収しようとしていたのはきちんと機能しているクラブだった。


 最初に父親のマルコム・グレイザーから電話がかかってきた。二週間後には息子のジョエルとアヴィがクラブを訪れて、彼らの姿勢をはっきりさせた。サッカーに関することはこれまでどおりの運営をするとのことだった。クラブは健全に経営されている。私は実績のある監督だ。何も心配はしていない。私を完全に支持している。彼らの口から聞きたかったそうしたことは、その日すべて聞けた。確かに世の中には建て前というものがある。安心しろと言っておきながら、山のように修正を加えるのだ。こうして首を切られる人間が出て、借金返済のために予算が削減される。だがユナイテッドは、新しいオーナーのもとでも安定していた。たとえ負債が(うわさ)になり、利子の返済が問題視されたとしても。


 長年の間にはクラブの負債に関する私の態度を表明するよう、いくつかのファンクラブから迫られた。彼らにはいつもこう答えた。「私は監督だ。アメリカ人のオーナーが所有するクラブで働いている」。それが私の態度だ。個人オーナーという形態について私見を述べて、クラブの経営サイドを動揺させるのは利口だと思えなかった。コーチの誰それの首を切るようにと指示するなど、グレイザー・ファミリーがもっと高圧的な態度を取ってきたら話は違っていただろう。私の監督としての権限を弱めるような指示が出されたら、クラブ全体に影響が及んでいただろうが、そのような圧力はなかった。ならば一部のサポーターに、生涯の職から退くよう迫られたからといって、従う必要はない。


 私が就任した頃は「第二役員会」として知られるサポーターのグループがあった。役員室で会合を開いて、マンチェスター・ユナイテッドのどこを改善するか決めたのだ。当時の私の立場は今よりも不安定で、第二役員会の支持を失ったらどうなるのか気を()んでいた。前任者たちも同様に感じていた。レンジャーズに在籍していた頃は、有力なサポーターがトップチームの遠征に帯同したり、ロビイストとして活動したりしていた。ユナイテッドでは、サポーターの意見はさらに多種多様だ。グレイザー・ファミリーの買収に反発した一部のサポーターは年間チケットを返上して、FCユナイテッド・オブ・マンチェスターというクラブを立ち上げた。


 クラブを背負って立つことにはそれなりの代償がある。まず、すべての試合に勝つことはできないし、死ぬまで監督を続けるわけにもいかないのだ。ユナイテッドが半世紀を二人の監督でやりくりしてきたのは幸運だった。勝敗にともなって、人間の感情も高ぶったり冷めたりする。サッカーが対立を生むのはしかたがない。私の記憶ではレンジャーズが敗戦したとき、サポーターはチームバスの窓にレンガを投げつけてきた。


 私の年齢を除けば、グレイザー・ファミリーが2005年夏の時点で監督交代を考える理由はなかった。私も引退が頭をよぎったことはなく、不安にも思わなかった。


 負債のために何千万ポンドもの利子が支払われたことで、クラブの先行きを心配する声が大きくなったのは確かだ。気持ちはわかるが、そのために選手を売却させられたり、移籍交渉の担当者に重圧がかかったりという事態にはならなかった。グレイザー・ファミリーの強みの一つはロンドンに営業部があって、世界中からスポンサーが集まってくることだ。トルコ航空、サウジアラビアや香港、タイの電話会社、東アジアのビール会社。おかげで何千万ポンドという現金が入り、借金返済の役に立った。サッカーの興業のみでも莫大な収益がある。常に七万六千人の観客が入るのは非常にありがたかった。


 要するに、グレイザー・ファミリーに邪魔をされたことは一度もないのだ。選手の獲得を断念するとしたら、法外な額の移籍金や年俸を要求されたときがほとんどだった。その種の決断は私とデイヴィッド・ギルが下した。負債のことを考えて金を使うように、と命令されたことはなかった。


 それどころか我々のスター軍団は厚みを増し続けた。2007年以降は南アメリカ、ポルトガル、ブルガリア出身の優秀な選手がキャリントンに集まった。この頃加入した外国人選手の中でも、ひときわ注目を集めたのがカルロス・テベスだ。シェフィールド・ユナイテッドの降格をめぐる大騒動の渦中にあった男で、後に宿敵のマンチェスター・シティに移籍した。

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