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ハリルホジッチ 勝利のスパイラル
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運命が扉を叩く──こんな時こそ、力のある男が必要だ

『ハリルホジッチ 勝利のスパイラル』
[著]ローラン・ジャウイ [著] リオネル・ロッソ [発行]日本文芸社


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 一九九八年九月十二日土曜日、ラジオ局ユロップ1のサッカー多元同時放送のジャーナリスト、マルク・ジャブロンスキーは、午後早く、フランソワ・プルミエ通りを出発した。その夜、ディヴィジオン・ドゥ第六節、ボーヴェ対リールの解説をするのだ。


 ジャブロンスキーは燃えるような赤毛で、熱い性格の持ち主。白の車体に青のラインが入った車には同乗者がいた。ラジオのセキュリティ責任者、ミロスラフ・ポポビッチだ。「ミロ」という愛称で知られるポポビッチは、ハリルホジッチの二十年来の友人で、かなり親しい。いつも着こなしが上品で、観劇に行くような服装をする。私たちは後に、ミロとハリルホジッチの長く厚い友情を大いに思いだすことになるだろう。


 ジャブロンスキーが思っていたとおり、パリからボーヴェまでの一時間半はあっという間だった。いつもは冗舌なジャブロンスキーも、モンテネグロ人の友人ミロの話を聞くしかなかった。ハリルホジッチの話はタネが尽きることがない。


 ミロは、毎日、ユロップ1の廊下で、ハリルホジッチの話を聞きたがるサッカーの専門家やさまざまなチームのサポーター、親しい同僚に、ハリルホジッチの話をしている。今日は、ハリルホジッチに会えるチャンスだ。ミロは数時間前、ハリルホジッチと電話で話をした。それでジャブロンスキーは、試合後、ミロが、FCナントの優秀なストライカーという、多少(あい)(まい)な記憶を人々に残した男と夕食を共にするという最新のニュースを知ったのだった。ハリルホジッチはモロッコを去った後、一九九三-九四年に短期間だけ監督を務めたボーヴェを、妻と二人の子どもを連れて訪れていた。


 スタッド・ピエール・ブリッソンに到着したジャブロンスキーは、偉大な男に会えるという確信を感じていた。地味な記者席に中継用の機材を置いたとき、ミロと視線が合った。二人とも同時に、数メートル先にいる、ラジオ・フランスのスポーツキャスター、ジャック・ヴェンドルーに気づいたのだ。ヴェンドルーはボーヴェから「インテル・フットボール」を放送するために来ていた。フランスサッカーの歴史的なアナウンサーの一人であるヴェンドルーは、サッカー界に広い人脈を築いている。どういうわけか、偉大なる元レ・ヴェール(ASサンテティエンヌの愛称)のドミニク・バテネイと一緒だ。

「ミロも私たちも、すぐに、バテネイがリールの次の監督に就任するのだと察した。現監督のティエリ・フロジェは解雇が噂されていたし、バテネイなら適任だ」と、ジャブロンスキーは後に語った。


 一方ポポビッチは、バテネイがいることに少し(いら)()った。フロジェが解雇されたら、友人のハリルホジッチに後任になってほしいと思っていたからだ。その夜、バテネイは実際にリールの会長と会ったが、仕事の話はなかった。


 リールは十七位で、早くも三部への降格の危機を迎えており、不協和音が聞かれはじめていた。チームのシンボルともいえるキャプテン、ジェゾン・ブトワイユはカレーへの復帰を考えていた。ウィンビー、クート、コローなどの選手たちは、もはや状況を改善できないでいた。



 一九九四年にピエール・モーロワ市長の要請でクラブの会長となったジャーナリストのベルナール・ルコントは、ショック療法でも施さないかぎり、リールは今シーズンを乗りきれないと強く感じていた。だから、新たなピンチに陥った監督を解雇しようとしていたのだ。出会いの前日、ルコント会長はスポーツディレクターのピエール・ドレオッシを呼んだ。

「ピエール、きみ、監督のライセンスをもっていたよね?」

「……ええ」

「ボーヴェに負けたら、スパイクを履いてチームを指揮してくれないか?」

「わかりました……お望みなら」


 ルコントは、もはや幻想を抱いてはいなかった。短期の計画を立てていた。一年のこの時期に、優秀な監督候補はあまり残っておらず、いたとしても高価だ。


 ボーヴェでの出会いの直前、ルコントは記者席でジャック・ヴェンドルーに会った。

「彼は私に、何人かの名前をもらしたが、私にはピンとこなかった。最後に、ハリルホジッチがスタジアムにいる、彼は失業中だと教えてくれたときも、正直言って、大して気にしていなかった」


 窮余の一策か、気休めか、リールの会長は、翌日の十六時、リールのラ・マドレーヌの自宅で、ハリルホジッチと会う約束をしていた。ハリルホジッチとの会合を手配したのは、ボーヴェの幹部ベルナール・クイネルだった。


 ボーヴェ対リールは平凡な試合だった。四千八百人の観衆の前で、ボーヴェが1対0で辛勝した。ベルナール・ルコントがロッカールームに下りてきた。ティエリ・フロジェに解雇を告げ、選手たちには、そのことと同時に、後任はピエール・ドレオッシだと教えた。どんでん返しがなければの話だが。


 フロジェの運命は秘密にされ、マルク・ジャブロンスキーは革のカバンに入れていたナグラのテープレコーダーのケーブルを片づけながら、ハリルホジッチがいたことを放送しなかったことを後悔していた。虫の知らせがした。ミロがジャブロンスキーを少しせかした。ハリルホジッチは、スタジアムから二百メートル離れたところにある二つのレストランのうちの一つで待っていた。そこはピザ屋で、ボスニア出身のハリルホジッチは、イタリア料理が大好きだった──特にフランスに来てから! もの静かな妻のディアナが一緒に来ていた。紹介は早々に終わった。ジャブロンスキーがハリルホジッチの向かいに座り、家族ぐるみの友人のミロがディアナと向かいあった。ハリルホジッチはネクタイを締めていて、適度に明るかった。ジャブロンスキーは帰宅するや(いな)や、ハリルホジッチの強いカリスマ性とあふれんばかりの自信を書き留めることになる。食事はなごやかに進んだ。ハリルホジッチは穏やかに食事仲間と話をし、翌日、リールの会長と会う約束があると告げた。だが、話題の大部分は旧ユーゴスラヴィアの内紛とサッカーについてだった。

「ハリルホジッチは、ラジャ・カサブランカを率いて勝ったアフリカチャンピオンズリーグについて、私に説明しようとしていた。確かに素晴らしい成果だが、私は困惑していた」と、ジャブロンスキーは後に回想する。「食事が終わる頃には、納得させられていたけど」


 食事は夜遅くまで続いた。駐車場で、ミロはハリルホジッチに、約束が果たせそうだと話していた。ハリルホジッチは、ミロが数カ月前、彼の履歴書を、リールとレンヌ、ストラスブールに送ってくれたことを思いだした。ハリルホジッチの失業中、友人のミロは、複数のクラブに率先して彼を売りこんでいた。ユロップ1のデスクに手紙のひな型を作らせたり、当時スポーツ番組のディレクターをしていたユージェーヌ・サコマノへ、有力な情報がないか、問い合わせたりもしていた。


 帰り道、ミロスラフ・ポポビッチはすっかり興奮していた。おかげで、一時間半の帰り道、ジャブロンスキーは眠くならずにすんだ。


 月曜日の朝、フランソワ・プルミエ通りで、ミロは、(くち)(ひげ)で隠しきれないほど大きな笑みを浮かべていた。ガラス戸を開けて部屋に入ったジャブロンスキーは、すぐにその理由を理解した。


 前日の日曜日、きっかり十六時に、めかしこんだハリルホジッチは、ルコント宅の玄関に、妻と、ボーヴェの幹部ベルナール・クイネルとともに立った。その瞬間、リールのルコント会長は、自分を見つめる、趣味が良い、気難しい男を次期監督にしようと決断した。「数分話しただけで、私は雷に打たれたような気がした」


 しかし、勝負はまだついていなかった。ハリルホジッチは自分の能力に強い自信をもっていた。彼の野心は二部のチームよりも、もっと上を目指していた……。同じ二部でも、その経歴からすれば、サンテティエンヌなどはどうだろうか。だが、ハリルホジッチは挑戦と直感の男でもある。直感は彼の大事な特徴だ。妻のディアナは、夫に、あなたの行動は動物のようだと言うことがある。ルコントは、ハリルホジッチに、執拗に監督就任を頼まなければならなかった。交渉人としても名高いルコントは、クイネルと女性二人をサロンに残し、ハリルホジッチを庭に招きだした。

「当時、リールは金持ちクラブではなかった。金銭的な提案は確かにひどいものだったし、ハリルホジッチは顔をしかめていた。だが、四時間の話し合いの末、彼は直感で引き受けたと言ってくれた」


 二人の男は手打ちをした。契約を交わしたのは翌朝。その日から、ハリルホジッチ監督の仕事が始まった。ルコントはこう評価する。

「どんな分野でも、サッカー以外でも、彼は決死隊に必要なタイプだ。困難な状況に陥ったときは、力のある男が必要だ」

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