『ハリルホジッチ 勝利のスパイラル』
[著]ローラン・ジャウイ
[著] リオネル・ロッソ
[発行]日本文芸社
古い習慣は変わらない。友人たちと美味しい食卓を囲んで、よもやま話をする。もちろん、サッカーの話も。
一九八一年春。シャンゼリゼ通りの豪華なレストラン、ボッカドールのサロンに、三人の仲間が集まった。ラジオ局ユロップ1の宣伝部部長ブルーノ・ダール、同スポーツ部の未来の部長ユージェーヌ・サコマノ、サッカークラブFCナントのスポーツディレクター、ロベール・ブジンスキーだ。ユロップ1とFCナントの結びつきは強い。ユニフォームのスポンサーであり、双方の間には商業的な関係が築かれ、意思を共有していた。ユロップ1とナントには長い歴史がある。
ダールと「サッコ」と「ブッド」は、一年に数回、会うのを習慣にしていた。三人は同世代で、同じようにサッカーが大好きで、サッカーへの情熱を分かちあっていた。三人の「四十代」が親友同士なのは、一目でわかる。
デザートを食べながら、いつもどおりの話題となった。近い将来、ナントを背負って立つのは誰か。次のシーズン、誰を加入させるべきか? 当時、移籍は今ほど多くなかった。失敗する権利も、冬の移籍市場のような調整期間も、まだ存在していなかった。
ブジンスキーは、情報通のサッコの話を注意深く聞いていた。ナントのスカウト担当として、ブジンスキーは迷っていたのだ。ナントの元選手、ウラジミール・コバチェビッチが、あるゴールを量産するストライカーの能力を褒めそやしていた。その選手はモスタルの選手だが、二十八歳になったので、かの有名な年齢制限を超えて、ユーゴスラヴィアを出て他国で腕試しをしてもよくなったのだという。ブッドは、その選手をユーゴスラヴィア代表で見たことがあった。ダールとサコマノは顔を見あわせて笑った。二人は同じことを考えていた。二人ともその選手、ハリルホジッチのことを、それ以上は知らなかった。
だが、彼らがいるレストランから百メートルと離れていないところで、ある男が、何時間もハリルホジッチについて語っているのを耳にしていたのだ。ユロップ1のセキュリティ責任者、ミロスラフ・ポポビッチだ。ポポビッチという名前からすると、モンテネグロの生まれだろう。健康的で、もじゃもじゃの口髭を生やしている。おしゃれで、いつも仕立てのいい服しか着ない。ビロード色の瞳が印象的だ。ミロはサッカーバカだった。自分でも時々、少しはプレーする。パリ近郊の、ピッチとは呼べないような場所でユーゴスラヴィアの退役軍人たちの監督をしていた。何より、ミロは何でも知っていた。ユーゴスラヴィアのサッカーで知らないことはない。百科事典より詳しい。
ダールがボッカドールにミロを呼びつけると、たちまちミロとブジンスキーは意気投合した。コーヒーをひと口飲んで、議論が始まった。ああ、ハリルホジッチは知っているよ。うん、素晴らしい選手だ、規格外のストライカーだよ。四年前、由緒あるモスタルでのプレシーズンマッチで会ったことがある。なるほど、彼はナントに必要な選手かもしれない。そう、一九八二年のワールドカップでは大活躍するだろう……。ミロは大手柄を立てた。サッコに口を挟ませなかったのだ!
ロベール・ブジンスキーは、その選手を雇うかどうか、まだ決めかねていた。だが、優秀な代理人を見つけたことは事実だった。口髭のミロ。春のこの夜にはまだ知る由もなかったが、ハリルホジッチの生涯の友人となる男である。