『ハリルホジッチ 勝利のスパイラル』
[著]ローラン・ジャウイ
[著] リオネル・ロッソ
[発行]日本文芸社
二〇一五年三月十三日、サッカー日本代表の新監督の就任記者会見が行なわれたとき、本田圭佑選手や香川真司選手をはじめ、大部分の日本人がハリルホジッチ新監督のことをあまりよく知りませんでした。本書は、そんなハリルホジッチ監督の半生を、二人のフランス人ジャーナリストが綿密な取材をもとに詳述して二〇〇六年に出版した評伝に、その後についての書き下ろしを加えて翻訳したものです。最も長く、詳しく書かれているのはPSG監督時代のことですが、ボスニア・ヘルツェゴビナでの少年時代から、日本代表監督として四試合を戦った後のインタビューまで網羅していますから、ハリルホジッチ監督の人となりがよくわかっていただけることでしょう。某代表選手への体脂肪率に関する名指しの“ダメ出し”も、「こういうことだったのか」と納得していただけるのではないでしょうか。
ただ、原書が書かれた頃と今とでは、状況が変わっている部分も多いかと思います。特に、ハリルホジッチ監督の故郷モスタルについては、著者二人が取材で訪れたのは二〇〇四年のことですので、十年以上経った今では復興がさらに進んでいるはずです。現に、ユーゴスラヴィア紛争で破壊されたものの修復され、ハリルホジッチ監督も開通式に出席したスターリ橋は、二〇〇五年に世界遺産に登録され、今では日本からの観光ツアーも数多く開催されています。私もいつか、ハリルホジッチ少年が遊び、「多くの画家が好んで描いたエメラルドグリーンの大河、ネレトヴァ川」にかかるスターリ橋を訪れてみたいと思っています。
ところで、私が本書を訳していて一番心を打たれたのは、ハリルホジッチ監督の奥様の言葉です。本書の中で、ハリルホジッチ夫人の言葉が書かれている部分はほんのわずかですが、四十年(取材当時は三十年)にわたって連れ添ってきた夫への深い真実の愛がこめられた言葉は、訳しながら胸が熱くなりました。そんなハリルホジッチ夫人の言葉を、サッカーを愛する日本人女性たちにもぜひ読んでいただきたいと思っています。Jリーグ開幕当時は二十代前半で、サッカーに熱中していた大勢の女性たちも、あれから二十数年が過ぎて生活環境が変わり、最近では仕事に家事に子育てに親の介護にと、サッカー観戦なんかしている暇はないというのが現実かもしれません。本書を手に取ってくださる方の多くは男性かもしれませんが、私も同世代の者として、そんな女性たちにハリルホジッチ監督率いる日本代表を応援する情熱を呼び起こしてもらいたいと思いながら本書を訳しました。
サッカー日本代表のワールドカップでの最高成績は、二〇〇二年大会と二〇一〇年大会のベスト16です。そのうち、二〇〇二年大会の日本代表を率いていたのは、フランス人のフィリップ・トルシエ監督でした。フランス国籍のヴァイッド・ハリルホジッチ監督が、三年後のワールドカップで、その成績を上回る結果を出してくれるものと期待してやみません。
ガンバレ、ニッポン! アレ、ジャポン!
二〇一五年七月
楜澤美香