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(2021/11/26 追記)

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生きる力を磨く 66の処方箋
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生き方・教養
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ときどき怒ることは体にいい【吉川】

『生きる力を磨く 66の処方箋』
[著]鎌田實 [著] 吉川敏一 [発行]PHP研究所


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 人間にはいろいろな感情がありますね。喜び、悲しみ、怒り、驚き、恐怖など、たくさんあります。基本的には、そうした感情は表に出したほうがいいとぼくは思っています。


 たとえば「怒り」の感情。絶えず怒っているのはもちろんよくないけれど、ときどき怒るのは、むしろ体にいい。怒りを上手に外に出すことで、免疫能が高められるのです。このことはさまざまな実験で証明されています。泣いたり笑ったりするのも、同様に免疫能を高めます。おそらくは感情が解放されることが免疫能にプラスに作用するのでしょう。


 反対によくないのは、たとえば怒りがあっても、その怒りをいつも抑圧して、自分の心の内で処理してしまうことです。たまりにたまって、いわゆる“キレる”状態になってしまう。最近では、若者だけでなく、中高年世代にもキレる人が少なくない。怒りの出し方の心得が欠けてしまっているのです。


 怒ることの効用の一つに「反省」があります。言いすぎたんじゃないかな……そう思って、次にはフォローを考える。というのも、怒られた相手はかなりのダメージを受けた可能性があるからです。


 ぼくがよくするフォローは、自分の悪い点を伝えることです。自分もこんな失敗をしたとか、こういうことでかつて上司によく叱られたとか。


 それから“べんちゃら”もよく使います。叱り飛ばした部下などを食事に誘って、好きな物をごちそうしたり。叱ったあとは、しっかりフォローする。これがいわばぼく流、吉川流です。

「怒り」とは意味合いが異なりますが、(はつ)(ぷん)させる意図で、部下に激しい言葉を投げかけることもあります。かれこれ二十年ほど前のことですが、部下を思いきり叱りつけたことがありました。「この患者さんを救えんかったら、医者なんかやめてしまえ!」と。


 この言葉だけ聞くと、なんかすごい言葉、それこそパワーハラスメントじゃないかと思われるかもしれないので、少しフォローしましょう。


 ある若い女性──名前を仮に及川美香さんとします──が(ちゆう)()(しゆ)というがんで、ぼくのところに来院されました。彼女は別の病院をすでに訪れていて、「余命数カ月」と宣告されていました。


 ぼくのところに来たときは、ご主人とお子さんと一緒。お子さんは生まれてまもない赤ちゃんです。「がんを治して、などとは言わない。この子が私の顔を覚えるまで、生かしてほしい」。美香さんはそう言って泣きじゃくりました。


 これはもう、彼女の思いに(こた)えなアカン。全力で思いをくんであげなアカン。ぼくは強くそう思いました。

「大丈夫ですよ」。そうは言ってみたものの、泣きじゃくる声はいっこうに収まりません。それどころか、ますます激しくなる。そこでぼくは思わず「よし、わかった。わしに任せ! 子供が顔を覚えるまで、絶対生かしたる!」と断言してしまいました。そして、続けて「及川さんを救えんかったら、医者なんかやめてしまえ!」と、声を張り上げてしまったのです。患者さんもご主人も看護師もいる場でした。もちろんやめろと言われた当人も。


 言った相手は主治医になる部下です。部下にとってはきつい言葉だけど、相談に来られたぼくがそれくらいの思いで真剣に、本気で、必死に向き合わない限り、患者さんは救われない。思いの(たけ)(あふ)れ、思わず主治医になる部下に激しい言葉をぶつけてしまいました。


 美香さんとご主人は「よろしくお願いします」と深々と頭を下げられました。少なくともぼくの思いは伝わったのだと思います。


 ほかの病院で「余命数カ月」と言われていた美香さんはその後、四年間、生きられました。入退院は繰り返しましたが、子供は四歳になり、十分にお母さんの顔を覚えるまでに成長していました。「ありがとうございました。子供もこんなに大きくなりました。治らなかったけれど、私は十分満足です」。美香さんは涙を流しつつ、そう言ってくれました。ぼく自身、救われる思いでした。


 主治医だった部下はというと、その後、ぼくに“お返し”をしてきました。とある年の忘年会の出し物で、「患者さんを救えんかったら、医者なんかやめてしまえ!」という芝居を演じてみせたのです。


 ぼくは思わず自分の感情を爆発させました。それは、目の前の患者さんをどうにかしたい、なんとか救いたいという思いからでした。そのあとは、主治医の上司として、治療法は共に考え、指示を出し、共に最善を尽くしていきました。


 怒りにしても、(しつ)()にしても、思いをぶつけたら、何かしらフォローすることは必要です。当たりっぱなし、言いっぱなしでは、周りはついてこない。場合によっては、ひどく落ち込んで、精神的にまいってしまうこともある。しっかりとフォローすることは、感情をぶつけるとき、ぼくが意識していることの一つです。


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