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トランプ登場は日本の大チャンス 新しいアジア情勢のもとで日米関係はこう変わる
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政治・社会
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第一部 中国海軍に頭を下げた米第七艦隊

『トランプ登場は日本の大チャンス 新しいアジア情勢のもとで日米関係はこう変わる』
[著]日高義樹 [発行]PHP研究所


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 二〇一六年七月、夏を迎えて陽射しの強くなった北京の中国海軍司令部を、アメリカ海軍総司令官のジョン・リチャードソン大将とアメリカ第七艦隊の首脳たちが揃って訪問した。中国海軍司令官の呉勝利上将をはじめ中国北方艦隊の首脳たちとの会議に出席するためだった。


 会議用に充てられた中国海軍司令部の大会議場には、大きな長い机が二列に並んで置かれ、そこに双方八人ずつの最高幹部が対面して腰を下ろした。机の周囲には中国北方艦隊と、アメリカ第七艦隊の部長クラスまでが合わせて七〇人あまり顔を揃えていた。


 アメリカ海軍と中国海軍の夏の制服はほぼ同じで、白の上下である。アメリカ側の出席者たちは、白の開襟シャツのスタイルのままでネクタイを着用していなかったが、リチャードソン大将だけは、詰襟の制服を着用し、胸に多くの功労賞の略章と潜水艦隊の小さな()(しよう)をつけていた。


 中国側は全員が制服を着用し、黒のネクタイをきっちりと締めていた。リチャードソン大将の制服の肩についている大きな肩章はいわゆるベタ金だが、呉勝利上将の肩章は黒の地に星が乗っている。


 中国海軍とアメリカ海軍の制帽も、ほとんど同じである。アメリカ側の制帽の徽章が銀のイーグルを支えた金色の(いかり)であるのに対して、中国側の徽章は、金色の輪がレッドスター、赤い星を取り囲んでいる。会議が始まってテーブルについた提督たちは全員が制帽を脱いでテーブルに置いた。アメリカ側は脇に置いたが、中国側はテーブルの上のピンクの名札の手前に並べた。


 会議は七時間も続いたが、その(かん)に提供されたのはミネラルウオーターだけだった。この日の会議の主旨は、要するにアメリカ側が中国とは戦いをしたくないという意志を伝えることだった。


 アメリカ海軍はこの会議を開催するにあたって、中国に対して「リスペクト・アンド・リゾルブ」、尊敬と決断をもって接したいと申し入れた。アメリカ側の姿勢についてアナポリスの海軍研究所の文書は、こう述べている。

「中国海軍は言ってみれば、子供が強い筋肉と力を持ってしまったようなもので、われわれ海軍の常識とは違った考え方をする。しかしわれわれは中国人の誇りというものを考えて、尊敬の念を持って中国海軍に接しなければならない。尊敬の念を持って中国海軍にどう対処するか決めることで、相互が納得できる解決策を手に入れられる」


 リチャードソン総司令官は、「アメリカ海軍と中国海軍との関係は難しいが、相互理解は不可能ではない」という外交的な発言で会議を始めた。しかしながら、「この尊敬をもって」という言葉は外交辞令としては妥当だが、南シナ海における軍事の担当者としては、危険な先走りをしているという他ない。


 リチャードソン大将が北京を訪問した一カ月後、アメリカ第七艦隊の首脳が再び北京を訪問して中国極東艦隊の首脳と、相互のコミュニケーションと海上における援助活動、自由航行についての話し合いを行った。そのなかで私が注目したのは、中国が台湾とベトナムに近いパーセル諸島(西沙諸島)とフィリピンとブルネイに近いスプラトリー諸島(南沙諸島)につくった軍事基地の問題である。


 私は二〇一六年七月十七日にアメリカ空軍が撮影したそれぞれの島の軍事基地の写真を持っているが、二つの島は完全に中国の軍事基地になっている。滑走路や格納庫、ミサイル基地、レーダー通信基地がつくられているのは明らかである。


 第七艦隊と中国極東艦隊の話し合いでは、相互のコミュニケーションと海難事故の際の援助活動、それに南シナ海の自由航行が課題になったが、南シナ海の島々を中国が不法に占拠している問題には、まったく触れていない。第七艦隊の担当者は次のように述べている。

「中国が、南シナ海の島々を埋め立てて自分の領土にしたのは、安い資源を金をかけないで手に入れようとするためで、主権国家としては当たり前の行動であると考えられる。


 われわれが()(ねん)しているのは、こうした基地を守るために中国が軍事的行動を強化し、外国の国々と対決した場合で、南シナ海の自由な航行が(そこ)なわれる結果になる。


 われわれは、中国がつくった基地を非難するのをやめ、友好的な話し合いをすることによって相互のコミュニケーション体制を確立し、南シナ海の自由な航行を守ることが何よりも大事だと考えている。


 そのためには中国を非難攻撃するのではなく、尊敬の念をもって対処しなければならない。軍事的対決を引き起こすことは極力避ける必要がある」


 つまりアメリカ第七艦隊の当局者は、ハーグの国際仲裁裁判所が不法と判定した中国の南シナ海の軍事基地について、尊敬と理解の姿勢を示すことによって、周辺での海上交通の安全を(はか)ろうとしているわけである。


 アメリカ第七艦隊とアメリカ海軍は、基本的に中国海軍と対決することを望んでいない。これは日本の(せん)(かく)列島に対する中国の侵略的な姿勢に対応するアメリカ海軍の考え方につながってくる。


 アメリカ海軍は、尖閣列島をめぐって中国がアメリカ艦艇を攻撃したり、アメリカ海軍と戦争を始めたりすることは、能力の差から見ても考えられないと判断している。中国側がやろうとしているのは、大量の漁船群を尖閣列島水域に侵入させ、事実上、尖閣列島の海域を中国のものにすることだと見ているのである。


 この漁船群についてアメリカ第七艦隊の首脳は中国海軍と協力し、国際的な密猟漁船として取り締まることによって問題を解決しようとしている。要するにアメリカ海軍は、尖閣列島をめぐっても中国海軍とは対決したくないと考えているのである。


 アメリカ海軍は、南シナ海における中国の不法な基地の建設を認めたうえで中国海軍と話し合い、南シナ海での自由航行を確保するという考え方を、尖閣列島問題にもあてはめようとしている。


 アメリカはバラク・オバマのもとでエンゲージメント(関与)政策を推し進め、中国との話し合いを米中関係の基礎にしてきている。


 アメリカ海軍はそれを一歩進めて、中国とは戦いをしないという前提で、現在の対立状況をとりあえず先延ばししようと考えている。


 はっきり言ってしまえば、アメリカ海軍は、自分たちの船を沈めるような戦いを中国とはしたくないのである。互いに話し合いをして、できれば劇的な状況をつくり出さず、現状維持を続けたいと思っている。


 アメリカ海軍が南シナ海の問題を、アメリカの存在を賭けた重要な問題でないと考え、南シナ海における中国の不法な行動を認めていることは、アメリカが孤立主義的になっているからである。


 アメリカにとって南シナ海は、地球上の限られた小さな場所だが、国際的にはきわめて重要な海域である。


 南シナ海からマラッカ海峡、インド洋へという航路は、私もアメリカの空母で幾度か通ったことがあるが、世界の航路のなかでは最も混み合った、そして最も重要な貿易ルートになっている。


 アメリカの貿易の三〇パーセントにのぼる一兆二〇〇〇億ドル、それに、世界の石油の三分の一、世界の船舶の半分が航行するこの海域は、世界というものを考えた場合、きわめて重要なものである。


 この大事な海域を、中国に明け渡してしまい、中国と話し合いをすることによって、自由な航行を維持できると考えているアメリカ海軍の首脳は、中国の侵略的な意図と野心をまったく理解していないと言わざるを得ない。


 アメリカがいったん、この地域から追い出されれば、中国が世界貿易の最も重要なルートを占有し、政治的に支配することになるのは目に見えている。しかもこの南シナ海の海底には、推定によれば二八〇億バレルの石油と、九〇〇兆立方フィートにのぼる天然ガスが埋蔵されている。


 中国の指導者は、この天然資源を独占して、共産主義体制を維持しようと考えているのである。


 アメリカという国は、場当たり的な金儲けに優れた能力を持っているが、歴史観や長期的な思考様式を持たないと言われている。南シナ海をめぐるアメリカ海軍の考え方はまさにそのとおりで、長期的な考えを放棄して、アジアにおけるアメリカの同盟国を冷たく見離している。

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