◆まず「保険は必ず入っておくべきものだ」という思い込みを捨てよう
セミナー参加者や家計相談に来る方とお話をしていてつねづね感じるのですが、ほとんどの方は、生命保険や医療保険に対して「必ず入っておくべきもの」だという思い込みを持っています。
最初に強くアドバイスしておきますが、「保険は必ず入っておくものだ」という思い込みは、ここできれいさっぱり捨てましょう。
そもそも保険とは、「人生で起きて欲しくないことが起き経済的に困った時」に備え、「その事態への対処のためのお金を受け取ること」を目的に、「保険料という対価を払って」加入するものです。
例えば子どもが幼いうちは、万が一家計の担い手が亡くなってしまうと、生活が苦しくなったり子どもの教育費などをまかなうのが大変になったりすることが考えられます。このような「万が一」の事態に備え、家計の担い手が亡くなった場合にまとまったお金を受け取ることを目的に加入するのが生命保険です。
このように本来の目的に立ち返って考えると、子どもがすでに独立した人、万が一のことがあっても遺族年金や死亡退職金などで残された家族が十分にやっていける人などは、生命保険は不要な場合が多いと言えます。50代の方が老後の準備を始める際、生命保険の見直しは必須事項なのです。
保険加入の目的を忘れ、「保険は入っておいたほうがいい」という根拠のない思い込みにとらわれて保険を見直さないまま放置していると、要らない保障を買う無駄な保険料を払い続けることになってしまいます。
第1章で家計の決算を行いましたが、決算書の中で、支出カットの最有力候補となる項目が、生命保険や医療保険の保険料です。【図表11】は、「保険会社に勧められるまま加入した保険を見直さずに保険料を払い続けた場合」と、「保険を見直して必要な保障のみにした場合」の保険料総支払額を試算して比較したグラフ。50~70代の30年間で、保険料総額はなんと約650万円も差がついてしまうのです。50代の10年間に限っても、保険を見直せば250万円近くも余裕資金が生まれる計算ですから、これは見直さない手はありませんよね。
◆「保険料を安くするための大原則」3か条
最初に、保険料を安くするための大原則を抑えておきましょう。ポイントは、大きく分けて
①民間の保険に加入する前に「すでに持っている保障」を知る
②目的に合わせて保険を選ぶ
③必要な時期だけ保障を買う
の3つです。
◆①民間の保険に加入する前に「すでに持っている保障」を知る
会社に勤めている方や公務員の方は、厚生年金や共済年金に加入していますよね。こうした公的年金には、老後の保障だけでなく、あなたが亡くなった場合の「遺族年金」や障害を負って働けなくなった場合の「障害年金」などの保障がついています。
また、誰もが加入している健康保険では、医療費の自己負担額に1か月あたりの上限が設けられています。これを知らずに「莫大な医療費がかかったらどうしよう……」という不安を抱えている人が多いのですが、健康保険証さえあれば、医療費について過剰な心配は不要なのです。
勤務先の福利厚生も見逃せません。会社ごとに福利厚生の内容は異なりますが、死亡時には死亡退職金や弔慰金がありますし、残された子どもが就学中なら育英年金を出してくれたり、医療費の自己負担の上限額が非常に低く設定されていたりと、充実した保障を用意してくれている企業は少なくありません。
保障設計を考える際は、まずこうした「公的保障や勤務先の福利厚生で、すでに持っている保障」をベースにしましょう。そこに貯蓄などの「私的保障」も加味し、それでも足りない分を民間の保険でカバーするというように、〝保障は下から上に積み上げる〟と考えると、無駄がありません【図表12】。
◆②目的に合わせて保険を選ぶ
みなさんは、保険会社から「これ1つ入っておけば、死亡時はもちろん、病気やケガをした時も安心ですよ」などと〝セット商品〟を勧められたことはありませんか? 特に今の50代の方は、「職場で保険の営業職員から勧誘を受けて、そのままセット商品に入った」という方が少なくないはずです。
しかし、セット商品には不要な保障もたくさんついていて、その分だけ保険料が割高になっているもの。「自分にとって必要な保障は何か」「保険でどんなリスクに備えたいのか」を明確にし、目的に合った保険を選んで、必要な保障ごとに単品で加入すると無駄をなくせます。
生命保険会社はさまざまなリスクを挙げて多様な商品をラインアップしていますが、ここで、みなさんが見直しや加入や継続を検討すべき保険を明確にしておきましょう。
保険加入の目的は、「亡くなったら経済的に困る人がいる場合」と、「病気やケガで入院や手術をしたら経済的に困る場合」、この2つのリスクに備えることです。「生命保険の目的は『死亡保障』と『医療保障』である」と覚えておいてください。
◆③必要な時期だけ保障を買う
繰り返しになりますが、保険とは「起きては困ることが起き経済的に困った時に」「その事態に対処するためのお金を受け取ること」を目的に、「保険料という対価を払う」ものです。言い換えれば、「あなたが亡くなったり、病気になったりした時に金銭的に困らないなら、保険は不要」ということです。
生命保険や医療保険には、それぞれ家計にとって必要な時期があります。
例えば生命保険は、「独身で扶養家族はなく、自分が死んでも経済的に困る人がいない」という場合は、加入する必要がありません。
しかし、結婚して子どもが生まれ、「自分が亡くなった時に子どもを抱えた妻が困ることになる」となったら、加入するタイミングを迎えたと言えるでしょう。
その後、子どもが独立し、「自分に万が一のことがあっても住宅ローンは団体信用生命保険で完済できるし、遺族年金が入ってくるし、まとまった貯蓄もあるし、妻もしばらくはパートで働き続けられそうだ。経済的に困ることはないな」などと判断できれば、生命保険を〝卒業〟する時期です。
保障は、その時々で必要性が異なります。年を重ね、家族構成や資産状況などが変化したら、それに合わせて保障を小さくしたり解約したりといった見直しをすべきなのです。特に50代の方は、老後に向けて貯蓄を増やしていかなければならないタイミングなのですから、高い保険料を払っている場合ではありません。不要なものにお金を払い続けるのはやめましょう。
◆保険の見直しは自力が鉄則。「無料の相談窓口」に近づいてはいけない
具体的な保険の見直し法に入る前に、頭に入れておいていただきたいことがあります。それは、「保険の見直しは自力でやるのが鉄則」ということです。
最近、夫婦で保険の見直しに取り組もうとする時、妻が「まずは無料の相談窓口に行ってみましょう」と言うケースが増えています。女性がよく行く繁華街やスーパーの中などに「無料相談」をうたう保険ショップがたくさんできていて、広告を目にする機会も多くなっていますから、「タダなら一度行ってみよう」と思うのも無理はありません。特に女性は、「無料」「お得」という言葉に弱い傾向があるようです。
しかし、ビジネス経験豊富な方はすぐピンとくると思いますが、保険ショップは純粋なサービスで無料相談に応じているわけではありません。彼らのビジネスモデルは、「無料」につられてやってきた人に保険を売り、保険会社から手数料を得ることなのです。
保険の無料相談を売りにする保険ショップに行くと「今の保険料は高いですね、見直せばもっと安くなりますよ」などと言われます。しかし、乗り換えを勧められた保険すべてに加入すると、トータルでは保険料がアップしてしまうケースも少なくありません。
保険ショップでは、相談者がこれまで2万円近く払っていた〝セット商品〟の保険をやめる代わりとして、「月払い5000円の○○保険に入りましょう」「奥様にも医療保険が必要ですね、月払い3000円です」「年払いで○○保険に入ると貯蓄代わりになって利率もお得です」などと複数の商品を勧めるのがよくあるパターン。このように、月払いと年払いが混在すると、1か月あたりの負担が増していることにその場で気づきにくく、「年間で保険料をいくら払っているか」という視点も抜け落ちやすくなります。
結局、「無料なのに親身に相談に乗ってもらったし……」「プロが必要だと言うんだから入っておいたほうがいいんだろう」などと感じて、言われるがままに保険に加入することになりがちなのです。
私が所属する「生活設計塾クルー」には、メンバーが書いた保険の本を読み、「保険ショップの無料相談を受けたものの、提案された保険プランに疑問がある」と有料相談に見える方が少なくありません。状況を詳しく聞くと、中には勤務先の福利厚生などですでに充実した保障があるうえ、貯蓄もかなり余裕があることが判明するケースもあります。このような場合、「あなたには保険は要りませんよ」とアドバイスすることになり、相談者は「やっぱり、そうよね」と納得されます。
保険ショップには、保険の売り手である以上、「あなたは保険が不要です」とアドバイスする選択肢はありません。「無料」につられて足を踏み入れ、「保険を見直したい」と相談し、「プロが勧めるのだから」と保険の乗り換えをして見直しを行った気になるのは、残念ながら〝カモがネギを背負っていく〟ようなものと言えます。
保険の見直しは、やり方を知れば簡単です。これからご説明する保険見直し法をお読みいただければ、誰でも自力で見直しができるようになりますから、ぜひご自身でやってみてください。