『安岡正篤 運命を思いどおりに変える言葉』
[著]安岡正篤
[解説]池田光
[発行]イースト・プレス
63 ものを考える上で大切なこととは
ものを考える上に大切な三つの原則を
述べておきたいと存じます。
第一は、目先にとらわれず、長い目で見る。
第二は、物事の一面だけを見ないで、
できるだけ多面的・全面的に観察する。
第三は、枝葉末節にこだわることなく、
根本的に考察する。
われわれがなかなか本質をつかめない理由は、目先のものにとらわれる、一面から判断してしまう、枝葉末節にこだわるといった表層的な見方をしてしまいがちだからです。
では、物事の本質をつかむには、どんな考え方をすればいいのでしょうか。
①長期的……目先の現象にとらわれないようにすること。たとえば時間軸を延ばして大きな流れやトレンドをつかんだり、先々に発生しそうな問題を予測したりすること
②多面的・全面的……たとえば売り手の立場だけでなく、買い手の立場ではどうかと、いろんな角度から見ること。つまり多方面から考え、全体的な観察をすること
③根本的……目に見える現象から、なぜ、なぜ、なぜと深めていき、底に流れる根本的なものをつかもうとすること
こうした考え方を習慣化すれば安岡の「思考の三原則」が身につきます。具体的に株価はどうなるか、需要が伸びる分野は何か、今後の交渉をどうすればいいかなど、どんな問題についても三つの観点から考えを深めていくと、人は、その人なりに、いつもより賢い答えを出せるはずです。
「賢い答え」を見いだすための“思考の三原則”を知る。
64 戦わずに生きるには
戦略というものは攻城兵戦にあるのではない。
武器を持って相戦うのではない。
そういうものは下策であって、
上策は相手の心を攻めるのだ。
心戦をやるのだ。言い換えれば、
思想戦、謀略戦、心理戦、冷戦である。
戦いには上策と下策があります。目に見える華々しい戦いは下策です。たとえば武力の時代では城を攻め落として兵力で屈服させるといったものです。上策は水面下で物事を決するという戦い方です。現象としては、ただ平和な状態が続いているだけに見えます。しかし、その裏で展開されているのは思想戦であり、謀略戦であり、心理戦なのです。
安岡の右の言葉は智謀の士馬謖(一九〇〜二二八)が丞相の諸葛孔明(一八一〜二三四)に献策したときの言葉を解説したものです。