『【新装版】頭の切りかえ方 新機軸を生み出すためのテクニック』
[著]多湖輝
[発行]ゴマブックス
“十両の客より百文の客をたいせつにせよ”
私の友人のある編集者が、あるとき、こんな美談を話してくれた。ねむの木学園の園長でもある女優の宮城まり子さんが、彼女の主催する展覧会場で、自分の本や色紙を買ってくれた人にサインをしていたときのことである。
何人かの子どもが彼女のサインをもとめて、親に買ってもらった本や色紙を手に手に持ってやってきた。するとその中に、おそらく親に本や色紙を買ってもらえなかったのであろう、自前の粗末なメモ用紙にサインしてくれと言ってきた一人の子どもがいた。美談というのはここである。ふつうだったら、自分の本や色紙を買ってくれた子どもをたいせつにして、そちらを優先するところであるが、彼女は、その粗末なメモ用紙を持ってきた子どもに、まっさきにサインしてやったのである。