『頭がいい子の家のリビングには必ず「辞書」「地図」「図鑑」がある』
[著]小川大介
[発行]すばる舎
◆「何をするか」以上に「どんな環境に身を置くか」
私は、中学受験を専門とする個別指導教室の代表を務めています。さまざまなご家庭への学習指導を行う際、必ず聞かれるのが「これをやっていれば大丈夫」という教材や勉強方法の情報です。
おたずねになる親御さんの目は真剣そのもの。「頭のいい子に育てたい」「遠回りさせたくない」という願いが切実に伝ってきます。
もちろん、子どもにどういう教材をいつ与えていくのかというタイミングや、その子に合った勉強法の実践はとても大切です。
ただ、それは、本格的に勉強を始めてからでも間に合います。
お子さんの将来を思うなら、お子さんの年齢が低ければ低いほど、優先して取り組んでいただきたいことがあるのです。
勉強法をお教えする代わりに、私はこうおたずねします。
「ところでお母さん、ご自宅のリビングって、どんな感じですか?」
「はぁ?」「リビング?」
肩透かしをくらう方が大半ですが、私の学習相談はこの質問から始まります。
リビングは、家族が一番長い時間をともに過ごし、みんながくつろぐ大切な場所です。テレビを観たり、新聞を読んだり、食事をしたり、洗濯物をたたんだりする、生活を営むメインスペースです。
家族がリラックスして過ごせるよう、清潔さや明るい雰囲気を保つなど、細やかな工夫がなされていることと思います。
そのリビングには、何があるでしょう? ご自宅のリビングについてたずねるのは、広さやインテリアや設えを知りたいわけではありません。
◆リビングに並ぶ地球儀や一揃いの図鑑
交友のある多くのプロ家庭教師が、口を揃えて言うことがあります。それは、「できる子のお宅はリビングでわかる」ということです。プロがひと目で「できる子」と感じるご家庭のリビングには、必ずあるものが置かれています。
それが、図鑑、地図、辞書です。知的アイテムの代表格と言っていいでしょう。
手に取りやすい場所に地図や地球儀が置かれていたり、本棚には大人用の本に交じって、子ども用の辞書や図鑑が並べられたりしている。おもちゃやゲーム以外に、親子で一緒に使える図鑑、地図、辞書が一揃えある……。
そういう家庭環境が整っているご家庭のお子さんは、勉強に対する姿勢ができているだけでなく、あと伸びがすごいのだそうです。
私もこれまで何千というご家庭の親御さんとお話をしてきましたが、「いい家庭環境だな」と感じるお宅は、やはり同様に図鑑、地図、辞書が置かれています。
リビングを、子どもがくつろぎエネルギーを蓄える空間であると同時に、知的な刺激に満ちた空間にしていくこと。つまり、リビングに代表される「家庭環境づくり」こそ、わが子の頭をよくしたいと願う親御さんにお伝えしたい最優先事項です。
◆父親の医学書を本棚から取り出して読む子
ユダヤ家庭の多くは、リビングに大きな本棚があるそうです。そこには子どもの本はもちろん、大人が読む小説や学術書も入っています。
子どもは本棚から親の本を取り出し、開いてみることもあるでしょう。書かれた文章の意味はわからなくても、真似をすることで賢くなれた気がしてうれしくなるのです。
そうして、本で何かを調べたり、新しい知識を得ることが日常に浸透し、子どもは「学ぶことは楽しい」と自然に知っていきます。
その結果、自分から勉強するようになり、どんどん優秀になっていくのです。
私の生徒のひとりに、算数と理科が飛び抜けてできる子がいました。お母さんにたずねてみると、ユダヤ家庭と同様の環境があったようです。
お父さんが勉強熱心な医師で、自宅のリビングの本棚にも医学書が並んでいました。
その子は物心ついた頃から、お父さんの蔵書を取り出し、英語やドイツ語が混ざった解剖図や美しい骨の写真などを、わからないなりに眺めていました。
あるとき、お父さんの本のなかで見た図を学校の授業でも目にしたことで、自分の勉強と、お父さんの仕事がつながっていることを知ります。それがきっかけとなって興味をかき立られ、あらためてお父さんの蔵書を見直すようになりました。
こうした環境のなかで、自然と科学的な知識に親しんだことが今につながっているのではないかとのことでした。その子は御三家とされる難関中学に進学しました。
リビングは親がどんな環境をわが子に与えたいか、その意思が端的に表れる場所です。
日頃、家族の目にふれるリビングの棚に、使わなくなった雑貨やおもちゃが乱雑に詰め込んである環境と、子どもの成長過程に見合った図鑑、地図、辞書や家族それぞれのお気に入りの本が並べてある環境……。
どちらが子どもの将来の学力にとって望ましいか、言うまでもないことと思います。