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誤解だらけの京都の真実
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人文・科学
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はじめに

『誤解だらけの京都の真実』
[著]八幡和郎 [発行]イースト・プレス


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『京都ぎらい』((いの)(うえ)(しよう)(いち)氏著、(あさ)()新書)という本が売れていると聞いて、はじめは信じられませんでした。京都本は売れないのが出版界の常識ですし、ほぼ同世代で京都にゆかりがある私にとって、井上氏はまったく知らぬ仲でもありません。


 パリに駐在していたときに「ヨーロッパにおける日本文化の受容」というテーマの研究で京都からやってきた井上氏のために、そのころパリに初めてできたカラオケ店でフランス人の女の子を集めたパーティーを開いたこともあります。井上氏は、なんと「セクシーだ」とパリジェンヌたちに大人気でした。


 彼の(はす)()いの京都論はおもしろいですし、鋭いとはいうものの、私にとっては四〇年近く聞いてきましたし、とくに目新しいわけではありません。にもかかわらず、この本が売れて二〇一六(平成二八)年の新書大賞まで取ったというのは、京都を知ることが日本人にとって有益であるとか、少し生き方を考え直すのに役立つと思われるようになったことの反映ならうれしいことです。


 本書では斜に構えることで本来なら論じにくい問題に切り込み、余韻を感じさせる井上流の議論と少し違う、もう少し「なぜ?」と分析的に考え、どう役立つかも意識した実用的な京都論を展開してみたいと思います。京都人が普通の日本人とはひと味違うことを示すさまざまなエピソードは、それを知っても笑っておしまいです。本書は「知って得する」「実践しないと損する」ような知恵を紹介しています。


 三方を山に囲まれた「千年の都」としての京都という町には不思議な力が宿っています。風水学によって選ばれたなどというのはウソですが、(せい)(りよう)(びやつ)()()(ざく)(げん)()()(じん)(そう)(おう)の地という、中国でも都として理想の立地だとされたこの地に来れば、行きづまったときでもいい知恵が湧いてくるという人は多くいます。


 (まつ)(した)電器産業(現・パナソニック)の創業者・松下(こう)()(すけ)もそのひとりで、商売をするのは大阪でも、ときに京都で思索にふけることを大事にしました。日本人ノーベル賞受賞者二五人のうち一四人がなにがしか京都と縁がありますし、京都学派の学者のほか、(きよう)セラの(いな)(もり)(かず)()氏や(ほり)()製作所の故・堀場(まさ)()氏のように日本の混迷を救う知恵を求められる経済人も多くいます。


 といっても、京都人が日本人離れしているわけではありません。何しろ千年も都であり、日本文化の正統派を代表している都市なのです。むしろ現在の日本で支配的な「東京の常識」というものが日本人の幅広い可能性を封じ込めているのであり、そこから自由になることが現在の混迷と危機から日本が脱出するために不可欠であり、京都という町に息づいている知恵や流儀を活用することが有益であると思うのです。


 ここで「日本の常識」と対比している「京都の流儀」は、家族や友人との関係を含む人間関係や人生についてのものからビジネスに関するもの、より一般的な政治や文化にかかわるものまで幅広いもので、その点が観光地として京都のおもしろさを際立たせた類書とは印象が違うものです。


 この本は井上氏の著作との関係でいうと、どちらを先に読んでもらってもいいようにしています。井上氏のベストセラーを先に読まれてからこの本を読んだら、「なるほど、そういうことか!」と疑問が氷解したり、彼が斜に構えて表現したことの裏側がわかったりするでしょう。


 私の本を読んでから井上氏の本に移れば、私の割り切った身も蓋もない分析ではなく、ある意味で「一見さわやか、じつはネチネチ」の感覚で「京都人が京都人をディスる世界」が予備知識を持って楽しめます。ディスるというのはディスリスペクトの動詞形で、人を軽蔑する、バカにするという意味のネットスラングです。


 これは一般論ですが、京都にかぎらず、「ご当地もの」を(きつ)(すい)の地元の人で、とくに外に出たことがない人に語らせると、かえって見当外れのことが多くなります。というのは、ほかの土地と比較しないで語るからです。


 京都についての本にも、古い歴史的な都市ならそういうところは多いのではないかという内容のものがたくさんあります。そういう意味では、京都の人でも、外国や国内のよその土地で仕事などをしてきた人が書いた本は説得力があります。


 また、私や井上氏のような「半京都人」も京都の観察者として最適です。井上氏が生まれ育った()()は、ほかの地域の人にとっては京都らしい観光名所ですが、(らく)(ちゆう)の人から見たら(らく)(がい)の農村部でしかないですし、(かつら)(がわ)の反対側の(たん)()との境界に広がる(かつら)(ざか)の研究所に勤め、()()市に住んでいます。


 私は滋賀県(おお)()市の生まれですが、県庁所在地といっても京都に飲み込まれそうな位置です。何しろ新幹線京都駅のホームからなら滋賀県庁や大津市役所のほうが京都府庁や京都市役所より早く着いてしまいます。京都駅から大津駅までわずか一〇分で、県庁はそこから徒歩三分なのです。


 便利なのはいいのですが、なんでも京都に頼ることになります。私が子どものころは奈良と並んで百貨店がない県庁所在地で、奈良にまで負けたときは本当に悔しい思いをしました。


 あとでまた京都と滋賀・大津のねじれた感情については書きますが、実質的には京都市民みたいな生活をしつつ、県境という存在ゆえに京都人とは決していわれない大津人には、よそさんから見たら京都人そのものなのに、京都では必ずしもそうは認められていない嵯峨という郊外の人とはまた違った、京都への複雑な思いがあります。


 私はかなりの期間にわたって東京の(かすみ)(せき)で働いていましたが、その間にいろいろなご縁があって、役所の仕事でも、研究者としての立場でも、京都のさまざまなプロジェクトにかかわる機会がありました。京都人と少し似た気位の高い人が多いパリで二度にわたって合計で五年間を過ごしました。ここ一〇年近くは京都に住んでいます。


 そうしたなかで、あらためて思うのは、この町が観光都市としてすばらしいだけでなく、混迷する日本にとって、いろいろなヒントを与えてくれそうだということです。それを『京都ぎらい』でこの町に興味を持たれた方などに、別の角度から考えてもらおうというのが本書なのです。



 ()(わた)(かず)()

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