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反知性主義と新宗教
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生き方・教養
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はじめに

『反知性主義と新宗教』
[著]島田裕巳 [発行]イースト・プレス


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 ドナルド・トランプがアメリカ合衆国の第四五代大統領に就任した。


 トランプは、不動産会社の経営者であり、「不動産王」とも呼ばれる。その象徴が、ニューヨークの五番街にそびえ立つ「トランプ・タワー」である。そこには現在も、ハリソン・フォードなどの有名人が居を構えている。


 アメリカで大統領選挙に出馬する人間は、多額の選挙資金を用意しなければならない。だが、トランプの場合には、(ばく)(だい)な資産を所有しており、選挙資金には困らなかった。大統領在任中も給与はもらわないと公言している。


 ただ、トランプが大統領選挙に勝利してからの世間の評判は、前任者であるバラク・オバマが大統領に就任したときとは大きく異なっている。


 オバマのスローガンは、"Change, yes, we can"であり、これには、アメリカの国民だけではなく、世界中の人間たちが熱狂し、彼を熱烈に支持した。父親がアフリカのケニア出身で、はじめての黒人大統領であることにも大いに注目が集まった。


 これに比較したとき、トランプについては、常に批判がつきまとってきた。共和党の大統領候補になったときにも、そして、大統領に当選したときにも、物議を醸してきた。トランプ大統領を支持できないと考えている人は少なくない。


 何しろ、隣国メキシコに対しては、「メキシコは問題のある人間を(米国に)送り込んでいる。彼らは(ごう)(かん)(はん)だ」と非難し、そのメキシコとの「国境に(ばん)()(ちよう)(じよう)を造る」と公言してきたからである。


 また、「すべてのイスラム教徒のアメリカ入国を拒否すべきだ」とも発言した。台頭する中国に対しても、「中国は米国民が飢え死にすることを望んでいる」と発言した。これだけの暴言を吐く大統領は、おそらくこれまで存在しなかったであろう。


 トランプは、政権のなかに数多くの強硬派を取り込んでおり、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)からの離脱を宣言するなど、従来のアメリカの方向性を大きく変えようとしている。イランとの核合意やキューバとの国交回復も破棄すると宣言しており、今後、大統領としてどういった行動に出るかに、世界中の注目が集まっている。


 アメリカのメディアは、トランプが大統領選挙への出馬を表明してから、そのあり方や政策を強く批判してきたが、その際に持ち出されたのが、「反知性主義」ということばであった。


 ジャーナリストの(みや)(ざき)(まさ)(ひろ)は、「トランプ現象」が生まれたときに、「とりわけ米国の主要メディアは『反知性主義』だとしてトランプ非難のオクターブを挙げた」ことを指摘している。そこには、リベラル派の「ニューヨークタイムズ」や「ロサンゼルスタイムズ」だけではなく、保守派の「ウォールストリートジャーナル」までが加わった。この宮崎の著作のタイトルは、まさに『トランプ熱狂、アメリカの「反知性主義」』((かい)(りゆう)(しや))というものである。


 宮崎の著作は、まだトランプが共和党の大統領候補にも指名されていない二〇一六年五月に刊行されたものだが、彼が共和党の候補に指名され、大統領選挙でヒラリー・クリントンに対して勝利した後も、トランプのあり方が反知性主義と結びつけられることが多い。


 たとえば、『東洋経済オンライン』(二〇一六年一一月二九日付)には、「トランプ勝利の根因、『反知性主義』とは何か 『知能』が『知性』を打ち負かした」という記事が掲載されている。


 執筆者はコミュニケーション・ストラテジストと称する(おか)(もと)(じゆん)()で、具体的な中身は、反知性主義ということばを広めたリチャード・ホーフスタッターの著作『アメリカの反知性主義』(みすず書房)を翻訳した()(むら)(てつ)()へのインタビューである。


 田村は、アメリカにおける反知性主義は、「『知能』を重視しても『知性』を軽蔑し、さげすむことであり、学者や科学者、ジャーナリストなどが批判の矛先となってきた」と指摘している。その上で田村は、トランプが勝利したのは、その知能、「インテリジェンス」にあったと分析している。


 田村は、トランプは、たんに自分の感性や感情をそのままことばにして表現しただけではなく、「こういえば、受ける」ということを計算し尽くした上で臨んでおり、人を説得する技術こそが「インテリジェンスの大きな武器の一つ」だと述べている。


 もう一つ、トランプと反知性主義の関係について論じているのが国際(キリ)(スト)(きよう)大学学務副学長の(もり)(もと)あんりである。森本には、『反知性主義──アメリカが生んだ「熱病」の正体』((しん)(ちよう)選書)という著作がある。森本は、「政治の素人で、憎悪や偏見に満ちた過激な発言を繰り返すトランプ」が支持されてきた背景に反知性主義の存在を見ている。


 トランプは、「反ワシントン」や「反エスタブリッシュメント」をスローガンに掲げたが、森本によれば、こうしたことは一九世紀以来、何度もアメリカに現れてきたという。そして、反知性主義は、知性そのものではなく、知性と権力との結びつきが固定化されることへの反発であり、その源流を、アメリカの独立前から盛んになったキリスト教の「リバイバリズム(信仰復興運動)」に求めている(「大統領選トランプ現象 反知性主義の伝統」『(ちゆう)(がい)(につ)(ぽう)』二〇一六年四月二七日付)。


 森本の著作『反知性主義』は、このリバイバリズムの歴史とその特徴について詳細に論じたものである。


トランプを勝利に導いたキリスト教福音派



 アメリカで、このリバイバリズムの流れをくんでいるキリスト教徒は、「(ふく)(いん)()」と呼ばれる。福音派という言い方をすると、キリスト教のプロテスタントにおける一つの宗派のように思われるかもしれない。だが、英語ではEvangelicalであり、むしろ「福音主義」と訳した方が実情にあっている。


 福音派という言い方は広く使われており、科学的な見方を許容する「自由主義神学」とは対立関係にある「原理主義」の傾向が強い人々のことをさしている。福音派は、聖書に書かれていることを文字通りに信じ、学校で子どもたちに進化論を教えることや、人工妊娠中絶に反対する。福音派とは、キリスト教原理主義の勢力をさすと言ってもいい。


 現在のアメリカでは、"christian"ということばで、こうした福音派をさすようになってきた。多くのアメリカ人はキリスト教徒としての自覚を持っており、その点では、彼らも"christian"である。ところが、とくに信仰に熱心で、その立場を譲ろうとしないキリスト教原理主義の福音派をさして、"christian"という言い方が使われているのである。


 ただし、福音派は、当初の段階では必ずしもトランプを支持していなかった。


 福音派と政治との関係、とくに大統領選挙との関連が指摘されるようになったのは、元俳優のロナルド・レーガンが一九八一年に第四〇代大統領に就任したときだった。レーガンも、トランプと同様に共和党から出馬している。その後、やはり共和党の第四一代大統領のジョージ・H・W・ブッシュ、その子どもである第四三代のジョージ・W・ブッシュの選挙の際にも、福音派が大きく貢献したといわれてきた。


 その福音派も、当初の段階では、必ずしもトランプを支持していなかったのだ。


 キリスト教系のサイト、"CHRISTIANITY TODAY"には二〇一六年三月一八日に、"Actually, Most Evangelicals Don't Vote Trump"という記事が掲載されている。多くの福音派が予備選においてトランプには投票しなかったというのである。この記事では、おおよそ福音派の六〇パーセントがトランプ以外の候補者に投票したことが指摘されている。


 ところが、大統領選挙の本番においては、福音派の八一パーセントがトランプに投票した。これは、ABCニュースによる出口調査の結果だが、民主党の候補者ヒラリー・クリントンに投票したのは一九パーセントにとどまった(『クリスチャントゥデイ 日本語版』二〇一六年一一月一〇日付)。


 これは、非常に興味深い結果である。当初、福音派はトランプを支持していなかったにもかかわらず、最後は圧倒的多数がトランプに投票し、トランプ政権の誕生に大きく貢献したからである。


なぜトランプは福音派を取り込めたのか



 ではなぜ、福音派は態度を変えたのだろうか。


 しかも、トランプがこれだけ多くの福音派の支持を得たのは、ジョージ・ブッシュ父子や、その後の共和党の大統領候補、ジョン・マケインやミット・ロムニー以上だというのである。


 この変化については、まだ十分な分析がなされていないが、当初、福音派がトランプを支持しなかったのは、二度の離婚歴があるだけではなく、過去に人工妊娠中絶を容認する発言をしていたからだった。


 ところが、六月二一日には、福音派のリーダーなど五〇〇人がニューヨークでトランプと会見するという出来事が起こる。これは、福音派によるトランプの「品定め」であったようだが、指導者たちはこの会見で、トランプに対していい印象を受けたのであろう。この時期あたりから、福音派は不支持から支持へと態度を変化させていった。


 トランプの側も、福音派の取り込みに力を入れるようになる。


 九月八日から四日間にわたってワシントンにおいて、アメリカの福音派の年次集会である「バリューズ・ボーター・サミット」が開かれた。


 トランプは、この集会の二日目に登壇し、「トランプ政権は、これまでに見たことがないほどキリスト教の文化を大切にし、保護する」「私は家庭の価値観のために戦う」と宣言した。


 アメリカでは、教会などの非課税の団体や組織が選挙において特定の候補者への支持を表明することが、「ジョンソン修正法」(注:米国内国歳入法第五〇一条に規定)によって禁止されている。トランプは、その廃止を主張したのだった。


 その時点で、この集会の主催者は、「予備選で福音派の多くがテッド・クルーズ氏に投票したが、今は七五パーセントがトランプ氏を支持している」と述べていた。これが実際の大統領選挙でまさに現実になったのである((いわ)()(よし)(ゆき)「トランプ氏、福音派の支持を期待」『世界日報』二〇一六年九月一三日付)。


 もし福音派の態度が当初のまま変わらず、トランプを支持していなかったとしたら、彼が大統領に当選することはなかったであろう。


 ということは、福音派の動向がアメリカの大統領選挙を左右し、結果的に世界に大きな影響を与えたことになる。


日本に存在するアメリカ的「反知性主義」



 日本でも最近は反知性主義ということがよく取り上げられるようになってきた。(うち)()(たつる)編『日本の反知性主義』((しよう)(ぶん)(しや))といった本も刊行されている。


 ただ、こうした本でもそうだが、日本で言われている反知性主義は、ホーフスタッターが『アメリカの反知性主義』のなかで使った意味とはかなり異なっている。知性の欠如を批判的にとらえる時に、反知性主義ということばが持ち出される傾向が強い。


 しかし、日本にもまさにホーフスタッターが指摘したような意味での反知性主義の伝統が存在しているのではないだろうか。知識人を批判し、知性よりも知能を重んじるという方向性である。それは、まだ見過ごされており、それを探ることが、この本の目的なのである。


 その際に考察の中心におくのは、「新宗教」、あるいは「新興宗教」と呼ばれる宗教的な潮流である。そうした潮流は、新宗教と対比される「既成宗教」のなかにも見て取ることができる。政治や経営の世界にも見いだすことができる。こうした新宗教を中心とした反知性主義の流れは、アメリカにおける福音派に通じるものである。


 最近では、「(につ)(ぽん)(かい)()」といった組織に関心が集まっているが、こうした運動体も、反知性主義の文脈のなかに位置づけることができる。そして、日本会議とともに、現在の政権が維持される上で大きな働きをしている公明党の支持基盤、(そう)()(がつ)(かい)も、新宗教の代表的な存在であるがゆえに反知性主義としてとらえることができるのだ。


 ということは、現在の日本社会において、反知性主義の考察が、今や不可欠な課題になっていることを意味しているのである。

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