
女性が男の嘘を見抜くのは、言うまでもなく女性特有の勘が働くからだろう。
勘とは五感では感じ取れないものをとらえる直感的な能力のことだが、女性の勘は男に比べてすこぶる発達しているようだ。
女性は男のいつもとは違う仕草や顔つきから、「この人は嘘をついている」と素早く察知する。口元が歪んでいるとか、目に落ち着きがないとか……。とくに、自分の夫や恋人の変化は敏感に感じ取り、つぎつぎに新しい推論を立てていく。こんな高度な情報処理能力は、ほとんどの男には備わっていない。いや、男からしてみると、女性のそれは超人的ともいえる能力なのである。
こうした男女差はいったいどこからくるのだろうか。結論から言ってしまうと、情報に敏感な女性の特質に理由があるように思える。
女性たちは流行に遅れまいと常に最新情報に注意を傾けている。同じように、目の前にいる自分のカレや夫の最新情報を見逃すまいと、態度、仕草、表情、ものの言い方に注意を傾けているのだ。
たとえ数分前まで「この男性は誠実な人だ」と思っていたとしても、女性はそれに縛られたりはしない。男なら「誠実な男だから嘘はつかない」と思って疑惑などまったくもたないが、女性は勘がとらえた最新情報を大切にする。そして、過去の情報を最新情報へとどんどん書き換えていくのである。つまり、数分前まで「誠実な男性」だと思っていた人も、嘘をついていると見破った数分後には「不誠実な男性」へと変わってしまうのである。
わたしが出版社に勤めていたころのこと。同僚の男がある自慢話をした。彼は話をしてみると物知りでなかなか面白味のある男なのだが、年齢より少し老けて見え、独身なのにどこか生活にくたびれたような雰囲気があった。黙しているといかにも冴えない風体の男なのだ。その彼が取材の合間に時間ができたので喫茶店で原稿を読んでいたら、いきなり若い女性から声をかけられ、すっかり意気投合してしまい、デートの約束までしたというのだ。しかも、その女性は吉永小百合似の清楚な美人だという。
後から考えると、あまりにできすぎた話に、「本当かな?」という疑いがわたしの頭をよぎったように思うのだが、一瞬のことだったので気にも留めず、その話を鵜呑みにした。実はもう一人、一緒に話を聞いていた男がいた。その男もやはり同じように、疑いの目を向けることはなくただ相づちを打った。
ところが、たまたまその現場に居合わせた人間がいて、しばらくたってそれが嘘だったことが発覚した。
彼は原稿を読むのに夢中になっていて伝票がテーブルから落ちたことに気づかず、それを隣に座っていた女性が拾ってくれ二、三、言葉を交わしたが、そこに待ち合わせの相手がやって来て、すぐに喫茶店を出ていったのだという。ただ、清楚な美人という部分は本当だった。美人から声をかけられるなどという心ときめくような出来事にはめったに出合えるものではない。もしかしたら彼は一目惚れをしたのだろうか。待ち合わせの相手があと十分遅れて来てくれれば、連絡先を聞き出すチャンスがあったのではないかなどと、何度も思い返しているうちに、あんなつくり話ができあがってしまったのかもしれない。
とにかく、彼の嘘をわれわれ男は看破することができなかった。それは、わたしたちがその同僚の話し方や表情を日頃から細かく観察していなかったからだろう。また、その男が普段からつくり話をするような男ではなかったということもある。この例からもわかるとおり、男は嘘に対してかなり鈍感だといえる。
しかし、この話を聞いたのが女性なら、きっとその場で嘘を見破っていたにちがいない。
女性は最新情報に敏感なだけでなく、そもそも人の心を読むのがうまい。
一般に親は女の子に甘い。だから、女性は子供のころから自分のわがままを通すために、自然に人の心を読む訓練を積んでいる。つまり、相手の顔色、心の動きを的確にとらえて、絶妙なタイミングで話を切り出す。こうした訓練を重ねてきたわけだ。
一方、わたしたち男の多くは、目の前にいる相手の表情や態度から相手の本心を見抜くという訓練をしたことなど、生まれてこのかた一度もない。しかも何かに夢中になると、まわりのことなどまったく目に入らなくなってしまう傾向がある。そのため、人の心の動きなどおかまいなしに、話に熱中してしまって顰蹙を買うこともしばしば生じる。
しかし、女性は違う。彼女たちは話に夢中になっているときでも、かなり鋭い観察眼を働かせている。女性にじっと見つめられると、男は「もしかして自分に気があるのかも」などと、ついうぬぼれてしまうが、現実にはそんな甘い話はまずない。
彼女たちはあなたを冷静な目で観察している。あなたの表情から本心を読み取ろうとしている。もしかしたら、あなたの男としての価値を値踏みしているのかもしれない。
同性である男にさえ簡単にだまされてしまう男たちは、女性にはもっと簡単にだまされる。女が男をだまそうとするときも、女の勘が機能している。この男には嘘をついたほうが得だという勘が。これは女性に対する悪口ではない。彼女たちの勘の鋭さについて説明しているだけ。
男が嘘をつくときは、べらべらしゃべるとき。
女が嘘をつくときは、黙っているとき。
そう思ってまず間違いない。女性はおしゃべりだが、彼女たちがべらべらしゃべるのはどうでもいいような内容であって、肝心なことにはかたく口を閉ざす。男はやましいことを隠そうと余計なことをしゃべるから、嘘がばれてしまう。普段あまりしゃべらない男も、嘘をつくときはなぜかおしゃべりになる。われながら滑稽な気もするが、わたしたち男には確かにそういうところがある。逆に、女性は語らずにいることで、男をだますのだからずるい。
男の嘘には必ず言い訳がつく。
女の嘘にはいっさいそういうものがない。
肝心な部分にふれないだけだから、嘘をついているわけではない。これが女性たちの言い分だが、男からすればそれもまた立派な嘘である。
たとえば、女性が元カレに街でばったり出会い、誘われてお茶を飲んだとしよう。一度は好きになってつき合った相手である。話をすれば懐かしく、心ときめく瞬間もあるだろう。しかし、今のカレの前でそんなことはおくびにも出さない。気配さえ感じさせない。もしかしたら現在進行中のカレの前では、過去につき合った男性のことを一時的に記憶の中から消去してしまえるという特技をもっているのかもしれない。
自分を守るための嘘。女性たちの嘘のほとんどはそれだと思っていい。いずれにしても、女性たちの嘘には自己防衛本能が関係しているといっていい。
Advice to Men
相手の目を見て嘘をつけるようになったら一人前。余計なことは口にせず、堂々としていれば嘘がばれることはない。