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われ悩む、ゆえにわれあり
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生き方・教養
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はじめに

『われ悩む、ゆえにわれあり』
[著]土屋賢二 [発行]PHP研究所


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 わたしは悩むのが得意である。年をとっても悩む力は衰えず、悩みは増える一方だ。いま抱えている悩みも五百はくだらない。それも、たとえば「妻が横暴だ」を一つと数えたときの話だ。横暴さを細かく分類すれば、それだけで千は超える。

 悩みのデパートといってもいいほどなのに、悩みを解決するのは苦手である。わたしが扱う相談は、法律相談や医療相談とは違って専門的知識では解決できない相談だ。専門的知識はいらないが、洞察力や英知が必要だ。それこそわたしに欠けているものだ。

 わたしが人生相談の連載をしていると言うと、友人が「お前は哲学者のくせに、そんなに相談に乗ってもらいたいのか」と言う。「相談に答える側なんだ」と訂正すると、「ますますお前には無理だ」とあきれられる(わたしは人をあきれさせるのも得意だ)。

 人生相談の連載の締め切りを迎えるたびに、自分の悩みだけで手いっぱいなのに、なぜ他人の悩みを定期的に背負い込むことになったのか後悔している。人生相談の連載を引き受けなければよさそうなものだが、つい簡単に回答できそうな気になって引き受けてしまったのだ。どうすればこういう軽率な性格がなおるのか、いずれ、どこかの人生相談に投稿して答えてもらおうと思っている。

 だが、悩みはわたしの専売特許ではない。悩みはだれにでもある。本書で取り上げた相談は、同じ状況に置かれたらほとんどの人が抱く悩みだ。だからわたしは回答を考えながら、同じ悩みを抱き、同じように苦しむことができた。

 実際、考えてみれば、人間が生きているかぎり、悩みはどこまでもついてまわるものだ。食べたいものを食べると、ほしくもない脂肪が望ましくない部位にたまり、がまんしてやせてもリバウンドする。金は()まらないのに、脂肪や血糖値やストレスはたまる一方だ。快適に暮らしたいのに、家は狭く、妻の機嫌は悪く、洗濯機は故障し、携帯の使い方は分からず、電車はすしづめだ。

 これだけでも十分手を焼いているのに、さらに他人がからんでくる。勝手に無理な要求をし、自分の意志を押しつけ、批判し、義務を課し、責め、怒り、ミスを許さない。ときどき「わたしは他人の人生ではなく、自分の人生を生きているんだ。もっと自分を通そう」と決意するが、同じことをまわりの連中は、わたしより強く決意している。

 こんな状況に置かれていたら悩みを抱かないほうが不思議だ。この世界は人間が悩むようになっている。その悩みから抜け出すのは簡単ではない。悩みから抜け出すには、深く根をおろしている、ものの考え方を改めなくてはならないからだ。

 たとえば、色々な理由で、どうしても親を大事にする気持ちになれない人がいる(こういう中高年の女はたくさんいる)。それだけでは悩みは生じない。「親を大事にしなくてはならないのに大事にすることができない」と考えてはじめて、悩みは生じるのだ。

 この悩みはそれだけで終わらず、さらに複雑化する。三十分前に夫を叱り飛ばしたのも忘れ、「自分はマザー・テレサのような心やさしい女だ」という勝手な思い込みを思い出すと、「やさしいはずのわたしが実の親さえ大事にできない」と自分が許せなくなり、自分を責め、悩む(だが夫に厳しく当たる自分は許している)。人から「自分を責めてはいけない」とアドバイスされると、いったんは納得するが、すぐに「自分を責めてはいけないのに、つい自分を責めてしまう」という悩みがあらたに加わってしまう。

 人生は本来、楽しいものだと思うが(子どもや子犬は何もなくても楽しそうにしている)、勝手な思い込みによって苦しみや悩みがいくつでも簡単に生じるのだ。人生相談の回答には、慰める、叱るなど、色々なスタイルがあるが、いずれも基本は、相談者の考え方の転換をうながすものだ。わたしのやり方は「説得」である。わたしの回答に多少でも納得してくれることを願っている。

 しかし、残念ながら、わたしは説得も苦手である。

二〇一二年十月
土屋賢二
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