『本当にコワい? 食べものの正体』
[著]中川基
[発行]すばる舎
●カロリーの考え方
ダイエットと言えば「カロリー」ですが、そもそもカロリーってなんでしょう?
食品の太りやすさの指数?
間違ってはいませんが本質とはズレています。
改めておさらいしておきましょう。
本来の物理の教科書的(熱力学)な意味でのカロリーとは、「1gの水を標準大気圧下で1℃上げるために必要なエネルギー」です。
ホッカイロの鉄が酸化する時のカロリーや、ろうそくが燃えるカロリー、散弾銃の推進火薬の熱量なんかもまたカロリーであり、1カロリー=4.18J(ジュール)として計算されています。
しかし、我々人間を基準に考えると、カイロもろうそくも火薬も食べられません。
つまり、消化できないものは、カロリーはゼロと考えます。
食品のカロリーというのは、乱暴に説明すると、人間を水の塊に見立てて、そこから得られるエネルギーがどれくらいか、というところから計算されたものです。
そして人間のカロリー表示は、単位を大きくして1000cal(カロリー)単位、つまり、1000cal=1kcal(キロカロリー)単位で計算されています。
人間は、脂肪1gを熱エネルギーに変えるのに、9kcalを要します。
ハンドガンの弾を撃ち出すエネルギーは約200Jですので、脂肪1gぽっちで、188発以上のエネルギー効率があるという計算になります。
人体は、機械では到底太刀打ちできないぐらい、エネルギーの効率的利用が可能な仕組みなのです。
●カロリーは大ざっぱ計算でOK
この見事なエネルギー吸収力の結果、我々はできるだけ少ない摂取カロリーで、末永く生きながらえるように進化してきました。
その結果、飢餓には対応できるものの、現代のような飽食には対応策を持っていません。
ゆえに食べすぎると、体はいつか失うかもしれないエネルギーを体内に止めておこうと、際限なく脂肪細胞という形で体に溜め続けるわけです。
これが肥満の原因です。
食品のカロリーとして計上されるのは、人間が熱エネルギーとして取り込むことができる「タンパク質、脂質、糖質(炭水化物含む)」の3つで産出します。
この3成分が食品中にどれだけ含まれているかによって、カロリーが決められているというわけです。
糖質、タンパク質は1gあたり4kcal、脂質は先ほどの通り9kcalです。
油物が太ると言われているのは、肉(タンパク質)や糖(砂糖)に比べてg当たりのカロリーが倍だからです。
実際は、これらの量だけでなく、消化のしやすさ、調理方法、GI値(グリセミック指数)などもあわさり、1つの食品がどれだけ栄養になるか、太りやすくなるか、などは個人の体質も影響するので、カロリー表示というのはあくまでも目安でしかなかったりします。
なので、実際に使う場合は50kcal程度の区切りで、大ざっぱに管理して問題ありません。
「447kcal食べて、66kcal分運動をしたから、今日はあと何kcal食べてもいい」といった細かい計算は、実は不要なのです。
ちなみに例外として、アルコールに含まれる糖質は、熱になるカロリーなので実質ゼロです。
が、結果的に体が熱をつくることをサボるので、その分の消費カロリーがないと考えると、実質カロリーがあるという考え方もでき、体のことも考えると、ほろ酔い程度以上のアルコール摂取は、太りやすい体づくりをしてしまうことになります。
したがって、「アルコールの実質カロリーなしダイエット」なんてことは考えるだけ無駄です。
●糖質オフダイエットとカロリー
では、カロリー表記は使い物にならないのでしょうか?
一部では「糖質(特に炭水化物)摂取をゼロに近づければ、カロリーオフをしなくてもいいんじゃないか」、というダイエット論を展開する人もいます。
これは「低炭水化物ダイエット」、「アトキンス法」とも言われ、アメリカの循環器医師、ロバート・アトキンス氏が提唱したものです。
ざっくりとやり方を説明すると、1日の炭水化物摂取量を極端に下げる食事プログラムに切り替え、インスリン抵抗性(体内で分泌されるインスリンによる体の糖の利用効率の悪さのこと)を下げる(上がると糖尿病リスクが上がる)と、ダイエット効果が高いというものです。
アトキンス法は、体質によっては極めて効率的に健康へと導きます。
が、当然体質は人それぞれ、人によっては不健康になることもあり、特に肝臓、腎臓、そして心臓への負担が大きく、それらの臓器に問題を引き起こすことがあるので、本来は注意深く扱うべきダイエット法です。
しかし、この方法はどこで翻訳ミスされたのか、一部では、「低炭水化物にすればカロリーを無視して何を食べてもよい」という暴論まで存在するので、困ったものです。
カロリーは、ある程度は多くの人で実証を積み重ねてきた数値であるのは確かであり、細かな計算こそ不要ですが、1日の摂取エネルギーを産出するには、なくてはならない数値です。
実際、ダイエットのためにカロリー計算をすると、炭水化物を減らし(ごはんやパンの量を減らし)、野菜を増やし、肉類は脂身を避けて摂取すればいい、というごくごく当たり前の結論にしかなりません。
そもそも栄養学的にダイエットを考えると、「脂ぎったものや甘いもの、炭水化物を食べすぎない」、というのに集約されます。
むしろ日常生活で、揚げ物(揚げ菓子も)を一切摂らないようにするだけで、相当量のカロリーオフが可能です。
油脂類の摂取が減ると必然的に、インスリン抵抗性を上げる飽和脂肪酸の摂取量も減るので、結果的にはかなりいろいろなものが丸く収まってしまいます。
●添加物が招く高カロリー低栄養
産業として飲食を提供する場合、可能な限り安くておいしいものを提供しなくてはいけません。
それゆえ、カロリー過剰の食べものを量産してしまう傾向があります。
例えば、アメリカのファストフードなどはその典型で、ホットドッグ1つとっても、不必要なまでの油に、砂糖(ガムシロップ)が使われています。
まず、パン単体で甘さを感じるほどに砂糖が含まれています。
これは通常の小麦粉と水と酵母菌でつくられるパン生地ではなく、精製デンプン(コーンスターチ)に、発泡剤をはじめとする様々な添加物で焼き固めたパン(のようなもの)に、ソーセージには簡単にうま味を出すために、大量の牛脂やラードが、やはりガムシロップと乳化剤でまとめられて閉じ込められています。
さらにマスタードやケチャップもニセモノですから、重量の半分程の糖(コーンシロップ)が使われており、見かけ倒しのおいしさがつくられています。
その結果、本来のパン、本来のソーセージ、本来のマスタードとケチャップでつくるホットドッグより、4、5倍もの糖質を摂取させられることになります。
これは真の意味での添加物の負の側面と言えます。
本書では何度も説明していることですが、添加物は使用基準の範囲内であれば、すべてのものが無害と言い切ってもいいレベルの安全性です。
しかし、現在の食品加工技術自体が、添加物のおかげで高カロリー低栄養を実現してしまっているという側面は事実です。
見せかけのおいしさのために、栄養素が犠牲になり、油と砂糖を過剰摂取させてしまう……その手助けをしてしまうのも、「添加物」の一面と言えます。
つまり、添加物が悪いのではなく、添加物によって万能的に味を変えてしまうことが可能なので、その結果、簡単な食事を選ぶほど、低栄養でカロリー過多になってしまうということです。
これが、先進国で見られる貧困層の肥満化の原因の1つであることは、間違いありません。
食べものが体をつくる。
この当たり前すぎることを見失った結果、ジャンクフードで腹を満たし、そして病気というツケが回ってくる。
しかしそうした健康を質に入れて、安くてうまい食を求める人が多いのも事実。
そうした欲望に答えることで、利益を上げ続けた企業は今や世界中で店舗展開をしているではありませんか。
そして貧困層がそれを「ごちそう」と勘違いし、肥満の割合が深刻化しているのが残念ながら現実です。