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不寛容社会
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人文・科学
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はじめに

『不寛容社会』
[著]谷本真由美 [発行]ワニブックス


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 私は90年代の半ばに留学のために海外に出はじめ、アメリカ、イギリス、イタリアなど各国で働いてきました。国連の専門機関の職員だったときには、130か国以上の同僚がいました。現在は日本と欧州を往復して暮らしています。


 そうした海外での長い経験を経て、今あらためて日本について考えてみると、この20年ばかりの間にずいぶんと「不寛容な社会」になってしまったと感じています。


 島国で閉鎖的な文化であることも関係あるかと思いますが、たしかに日本人には昔から心の狭いところがありました。しかし、それでも今より景気が良かった頃は、もう少しカラッとした明るい雰囲気に包まれていた気がするのです。


 特にここ最近では芸能人の不倫を「非倫理的」だと叩いたり、ブログやツイッターで、毎日のように有名人や一般の人の投稿が炎上しています。


 個人的な体感としては2011年に東日本大震災があってから、叩く数も、ねちっこさも、さらに増大したように感じています。


 過激な叩きで記憶に新しいのは、タレントのベッキーさんの「ゲス不倫」です。


 人気ロックバンド「ゲスの極み乙女。」のメンバーと不倫していたことが週刊誌で報道され、CMだけではなく、出演していた番組をほぼすべて降板するまでの騒ぎになってしまいました。CM契約企業から訴訟をおこされるのではないかという話もあり、ネットでもテレビでも、まるでどこかの国に核弾頭が落とされたような騒ぎだったのです。


 しかし、よくよく考えてみれば、ベッキーさんは単に既婚者と付き合っていた、というだけです。しかもあくまで私生活での話。仕事で誰かに迷惑をかけたわけではありません。公的資金を不正使用したわけでも、誰かを物理的に傷つけたわけでも、何かを盗んだわけでもありません。


 何の犯罪も犯していないのにその扱いはまるで誰かを殺した人以上だったのです。


 ベッキーさんの件以外にも不倫報道はかなり昔からありました。


 ワイドショーを見たり、女性週刊誌を読むのが好きな少しませた子どもだった私は、俳優さん達の不倫報道をよく見ましたが、その内容はもっと色っぽく、湿っぽい話であり、「悪い」「許せない」と叩く調子ではなかった記憶があります。


 しかしベッキーさんの件は、まるで不倫自体が社会的に大変な害悪であり、まるで東京を破壊したテロリストに対するような大きな怒りが向けられていました。90年代までの日本にあった、大人の関係をちょっと生ぬるく眺めるような、そういう余裕が一切なくなっていたのです。


 アメリカ、イギリス、イタリアに長年住んで働いてきた自分からすると、芸能人の不倫がトップニュースになり何日も叩かれる様子は、大変奇異なものに映りました。


 メディアが独占状態で自由な報道をしにくいイタリアでさえも、日々のトップニュースは経済や政治の重要な話題です。アメリカやイギリスは言うまでもありません。そもそもワイドショー番組すらないのです。


 日本も年金問題や介護問題、労働者の実質賃金の低下、大手企業の不正経理、貿易問題、そしてまだ収束したとはいえない福島の原発問題など、重要問題が山のようになっています。そんな危機的状況にもかかわらず、日本のマスコミにとっても、一般の人にとっても、何より重要なのは「ゲス不倫」であり、本当の危機的な問題ではないようでした。


 他の国であれば経済問題をもっと深刻に議論するでしょう。なぜなら国民一人ひとりの実生活にかかわることであり、マスコミが重要問題を伝えるのは、民主主義の下地でもあるからです。


 今やネットを見ても、日本では大手ニュースサイトで人気を独占するのは芸能ゴシップです。ツイッターやFacebookで騒がれるのは社会問題ではなく「ゲス不倫」や、芸能人の宗教入信の話です。そしてときおり、その辺の高校生がコンビニのアイスケースに入った写真をツイッターに投稿して大炎上したり、一般人のちょっとした“やらかし”投稿が、大勢の人に叩かれています。


 先述したように芸能人の不倫の叩き方は、死んで謝罪しろというまでの勢いです。ちょっとしたイタズラをした高校生は、自宅からアルバイト先、親の名前まで洗いざらいに調べ上げられ、社会的に抹殺されてしまいます。しかし、彼がしたイタズラで誰かが死んだわけでもなく、お店が潰れたわけでもないのです。


 こうした人達を叩いている人は、その芸能人にも高校生にもまったく面識がなく、叩いたからといって、何をもらえるわけでも、表彰してもらえるわけでも、お金が儲かるわけでもありません。



 なぜ日本人は見ず知らずの人を叩かずにいられないのでしょうか?


 なぜ日本人はこんなに不寛容になってしまったのでしょうか?


 なぜ海外では芸能人の不倫がトップニュースにならないのでしょうか?


 なぜ日本人は些細な事で正義感を発揮しようとするのでしょうか?


 日本人は集団ヒステリーなのでしょうか?



 本書では海外の事例を踏まえて、なぜ日本が「不寛容な社会」になってしまったのか。なぜ「一億総叩き状態」なのか。また、日本人が「他人叩き」をやめ、より住みやすい社会にするためには何が必要なのかを考えていきます。

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