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[新装版]「なんでだろう」から仕事は始まる!
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経営者にはなれても経営はできない

『[新装版]「なんでだろう」から仕事は始まる!』
[著]小倉昌男 [発行]PHP研究所


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 私がヤマト運輸(当時は大和運輸)の二代目社長に就任したのは、四十六歳のときだった。脳梗塞(のうこうそく)で半身不随になってしまった父に代わって、会社を経営することになったのだ。すでに取締役として経営にたずさわっていたとはいえ、会社のトップとして陣頭指揮を振るうのは、それまでとは似て非なる仕事である。しかも、当時のヤマト運輸は長期低迷を続けていた。社長に就任した二年後には第一次石油ショックも起きている。決して楽ではなかった。

 いや、楽ではなかったどころではない。船が沈没寸前まで傾いたところで「おまえが船長になれ」と言われたようなものだ。人件費も削減(さくげん)を余儀なくされ、組合に「船の乗組員に降りろとは言わないが、このままだとヤマト運輸は沈んでしまう。いったん荷物を海に捨てて船を軽くさせてほしい」と頼んだこともある。四十代半ばの男が背負うには、いささか荷が重いと感じたのが正直なところだ。

 会社を経営するのに、「適齢期」というものがあるとは思わない。だが、この仕事を一人前にこなそうと思ったら、それなりの人生経験が求められるのは間違いないだろう。今の時代は二十代や三十代でベンチャー企業の経営に乗り出す若い人も多いが、旺盛(おうせい)なチャレンジ精神はすばらしいことだと思うものの、見ているといささか心配になることがある。

 というのも、若い世代の人間ほど経験の価値を過小評価し、「情報や知識があれば何でもできる」と思っているふしがあるからだ。とくに今はインターネットでだれでも膨大(ぼうだい)な量の情報を手に入れることができるし、企業経営のノウハウを教えるマニュアル本や雑誌なども山のように出ている。だから、余計に情報や知識の価値を過大評価してしまうのだと思う。

 たしかに、そういったものを読んで勉強すれば、会社経営に必要な知識は身につくだろう。法律で定められた手続きをクリアすれば、会社を興して経営者になるのも簡単だ。

 しかし、書類の上で経営者になれたからといって、それだけで経営ができるというものではない。経営とは、生身の人間とつきあう仕事だからである。

 事業のアイデアがどんなにすばらしいものだったとしても、それは一人で実現できるものではないはずだ。もちろん経営者には企画力のようなものが必要だが、それと同時に、人を動かす(すべ)を持ち合わせていなければ、自分の企画を形にすることはできない。当たり前の話だが、情報収集力にたけた若い人は往々にして頭でっかちになってしまい、その当たり前のことを忘れがちなのではないだろうか。

 実際にやってみると、人を使って事業を進めていくのはひどくむずかしいことだ。人間はコンピュータのような機械とは違うから、こちらが正しいと思っている理屈どおりに動いてくれるとはかぎらない。ところが勉強熱心な若者は、世の中の物事が自分の考えた理屈どおりに動くものだと勘違いしやすい。社員との関係も、所定の給料さえ支払っていれば何の問題もないと思ってしまう。だから、自分の設計図にはなかった思いがけない事態が起きると対処の仕方がわからなくなって、すぐに立ち往生してしまうのだ。

 そもそも、事業というものは予定どおりに物やサービスが売れるわけではないから、所定の給料を払いつづけること自体が容易ではない。そんなことが簡単にできるようなら、どの社長も苦労はしないだろう。会社を経営していれば、それこそ私が社長になったときのヤマト運輸がそうだったように、給料ダウンを告げなければならないこともある。「人を使う」ことのむずかしさが、もっとも端的に浮上する局面だ。

 それでも社員に仕事をしてもらえるかどうかは、経営者の腕しだいだろう。そんなときに生身の人間といかにつきあい、人を動かせばいいのかということは、インターネット上やマニュアル本には書いてない。たとえだれかの体験談が書かれていても、それはその人の体験にすぎない。私も先ほど、組合に賃金カットを頼んだときのエピソードを披露した。しかしそれも私個人の体験であって、マニュアルとして普遍的に通用するものではない。

 自分が人とどうつきあえばいいか、そのノウハウは人それぞれであり、ケース・バイ・ケースでもある。そして、さまざまな局面でどうふるまうかは、各自が積んできた社会的経験によって違ってくるわけだ。

 最近、その体験が希薄なために苦労している若い起業家と会って話をする機会があった。現役の大学生でありながら自分の会社を興した彼は、私に言わせれば「インターネット至上主義者」のような人間で、すべてをインターネットから学んでいるらしい。たしかに知識は豊富だったが、純粋培養のひ弱さがあるのはいなめない。実際、社員に給料が払えなくなって困ったこともたびたびあるという。そんな彼に、私はある都々逸(どどいつ)を教えてあげた。
「お顔見たけりや写真あり 声が聞きたきゃ電話あり

 こんな便利な世の中に 会わなきゃできないこともある」

 男女のあいだでも、いちばん大切なことは会わなければできない。経営者も、いちばん大切なことは人間を通じて学ばなければいけないのだ。経営者にかぎったことではない。インターネットでは答えの見つからないことが、世の中にはたくさんある。本当に価値のある情報というのは、生身の人間が持っているのではないだろうか。

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