「忙しい」「時間がない」が口癖になっていませんか?──はじめに
◆とにかく、毎日、忙しい!
本書を手に取られた方は、次に挙げるどれかにピンとくるのではないでしょうか。
・いつも「忙しい」という感覚に追われている。
・いつも「時間がない」と感じている。
・「あれもやらなければ、これもやらなければ」「あれも終わっていない、これも終わっていない」という思考が頭の中をぐるぐる回っている。
・「これさえ終われば…」「この忙しささえ抜け出せば…」といつも思って頑張っているが、実際に忙しさが終わったことはないので、やりたいこともできず、ゆっくり休むこともできない。
・忙しいので、デスクがいつも散らかっている。片付けたいと思っても、「こんなことをやっている場合ではない」とイライラして、結局デスクはいつも散らかったまま。
・忙しいので、生活の中に楽しく豊かな時間がない。自分は何のために生きているのだろう、という気持ちになることもある。
・忙しいので、自分の身なりに気を遣う余裕がなく、ささくれて、くたびれた感じ。
・忙しいので、人づき合いが億劫で、人と疎遠になってしまっている。
・忙しいので、窓口で待たされたりするなどちょっとしたことでイライラしがち。
・忙しいので、やりたいと思っていることができないうちに、歳ばかりとっていく。
・忙しいので、忙しくなさそうな人を見るだけでイライラする。
・忙しいので、お正月に帰れない、勉強できない、つき合えない、出会いがない、結婚できない。それは逃げだ、と言われるとカチンとくる。本当に忙しいのに!
◆それって「忙しい病」かもしれません
確かに、現代社会は忙しいもの。やらなければならないことをたくさん持っている人は少なくありません。「忙しい」「時間がない」と感じる人が多いのも、うなずけます。
しかし、「忙しさ」の問題は、実はそれほど単純なものではありません。
客観的に見れば本当に忙しいはずの人が、なぜか余裕すら感じさせることもありますね。一人で何役分もこなしてとても忙しいはずなのに、なぜあんなに優雅に過ごせるのだろう、と不思議に思う人が身の回りに一人はいるのではないでしょうか。
逆に、それほど忙しくないのに、髪を振り乱して「忙しい感」をまき散らしている、という人もいます。
つまり、「物理的にどれだけ忙しいか(持っている時間に対して、やらなければならないことの量がどれほど多いか)」ということと、「主観的にどれだけの忙しさを感じているか」は、必ずしも一致するわけではないということなのです。
この「ずれ」はどこから生まれてくるか、ということについては第一章でお話ししますが、冒頭に挙げた例が当てはまるような、「忙しい」「時間がない」感が強い人のことを、本書では「忙しい病」の人、と呼ぶことにします。
もちろん医学的な病気という意味ではありません。主観的な忙しさがきついため、いつも「忙しい」「時間がない」と追われるように過ごしている状態を「忙しい病」と呼ぶ、と考えてください。
◆「忙しい病」の弊害とは?
「忙しい病」の弊害はいろいろなところに現れます。
実は、「忙しい病」になると、作業効率が落ちます。いつも一生懸命やっているのに全然仕事が終わらない、用事が片付かない、などということになってしまうのです。すると、その「やり残し」が、「忙しい病」をさらに悪化させる、ということにもなります。
「忙しい病」になると、なぜ作業効率が落ちるのかは後述しますが、最悪の場合には、ただボーッとしてしまって何もできない、ということにすらなってしまいます。
いろいろなことを先延ばししたり後回しにしたりしてしまう、ということも多いです。そして、先延ばししたり後回しにしたりすることが増えるほど、結局は「やらなければならないこと」が増えるわけですから、ますます「忙しい」「時間がない」という感じ方も強くなり、「忙しい病」が悪化します。
こんな状態では、職場においても、仕事が雑になったり、落ち着きがなく見えたり、会議をサボってしまったりして、評価が下がる、などという可能性もあります。
「忙しい病」は、人から「生き甲斐」も奪っていきます。「忙しい」「時間がない」ということばかり感じていると、とても新たなことにチャレンジする余裕などなくなってしまい、生活がひどく平板化してきます。
つまり、「ただ何とかこなすだけの人生」になってしまうのです。そんな生活の中、「生きていて何か意味があるのだろうか」などという気持ちが生まれてくることもあります。
◆決して「忙しいのが好き」なワケではない
「忙しい病」の人の中には、忙しくなくなると落ち着かない、という人もいます。常に何かで時間を埋めていないと自分自身が不安になってしまうのです。そして、忙しければ満足かというとそういうことはなく、もちろん満たされた幸せ感はありません。
こういうタイプの人は、忙しくしていないと間に合わないのではないか、後で取り返しがつかなくなるのではないか、という感覚に支配されてしまっているだけなのです。つまり、「忙しい病」によって人生を乗っ取られている状態、と言えますね。
こんなふうに、様々な形で人生の質を損ねていく「忙しい病」について、その正体と対策を本書では一緒に見ていきたいと思います。
読んでくださった皆さまが、「忙しい」「時間がない」という感覚から自由になるきっかけとなれば幸いです。
水島 広子