『ニュース、みてますか? − プロの「知的視点」が2時間で身につく −』
[著]杉江義浩
[発行]ワニブックス
この原稿を書いている最中にも過激派武装集団「ISIL」が世の中に脅威を与えています。
彼らが国際社会で巻き起こす事件が毎日のようにニュースになり、拘束されていた日本人が残虐な方法で殺害されるという、ショッキングなニュースがネットとテレビから飛び込んできました。拘束されていた一人は知り合いでもあり、解放されることを祈りながら殆ど当事者のような気持ちで、ニュースから目が離せませんでした。
告白しますと本書の執筆に専念しなければいけないのは頭でわかっていても、コンピューターの画面はワードプロセッサーから、何度も別の画面に切り替えられていました。ニュースサイトをチェックし、分析ブログを書いていたのです。
さらには自分に何ができるわけでもないのに、いてもたってもいられず、ツイッターなどで「ISIL」側にメッセージを送っていました。まさに当時のニュースのまっただ中にいるような状態だったのです。そのせいで気が散って本書の品質に悪影響を与えていたら大変申し訳ないことです。ですが執筆中にもニュースと密接なお付き合いを続けていたことは、本書に限ってはその性格上、結果的にむしろ良い影響を与えてくれたと思っています。
ニュースが、これほどまでに私の心を鷲掴みにしていることを、再確認できたことがなによりです。本書の企画を頂いた時、放送プロデューサーである私が、十分にニュースに情熱を持っているのか自問自答していました。それは杞憂であり私はやっぱりニュースの虜でした。その異常なまでの情熱が本書にも表れているかと思います。
さらに本業のテレビ放送を出しつつ、ネット、テレビ、新聞と様々なメディアをリアルタイムで交錯させながらニュースと接したことで、それぞれのメディアの特徴をくっきりと分析することができたのは、良い影響だったと思います。
本書では現時点における最近のニュースを、事例としていくつか取り上げましたが、執筆している間にも日々新しいニュースが飛び込んできて、その度に「ああ、このニュースも例にして書きたいな」と誘惑に駆られました。でもそれをしていたらきりがないので、書きたい気持ちをぐっと堪え、ニュースとはそういうものだと割りきりました。
ニュースとは日々の記録であり、次々に歴史へと立場を変えていくものです。本書で触れられているニュースのうち、どれが歴史として残るのかあやしいものですが、たとえニュースが古びても、私が伝えたいメッセージは伝わるよう工夫したつもりです。
私をこのような本を出せるまで成長させてくれたのは、放送について右も左もわからなかった私を、基本から鍛えあげてくださったNHKとNHK時代の諸先輩方です。その存在がなかったらこの本はもちろん、私自身の存在もどうなっていたかわかりません。
特にニュースや報道について基礎から教えてくださったのは、言うまでもなく池上彰さんです。8年間あまりにわたって「週刊こどもニュース」を一緒に作りながら、それまでの私が身につけてこなかった、報道とはいかにあるべきか、というジャーナリズム精神を、師匠としてじっくりと仕込んでくださいました。本書の内容はそこから派生したものと言っても過言ではありません。
この場を借りて池上彰さんと「週刊こどもニュース」の全てのスタッフに御礼申し上げます。池上さんには執筆にあたっての的確なアドバイスも賜りました。
最後になりましたが、いち早く鋭い眼力で私のブログに目をつけて本書を企画し、私に上梓の機会を与えてくださったワニブックスの内田克弥さんと、執筆を支えてくれた私の家族にも、この場を借りて感謝の意を表したいと思います。内田さんは出版について全く素人だった私を、丁寧にご指導くださり立派な書籍に仕上げてくださいました。
多くの放送人と出版人に恵まれた本書が、みなさまのお役に立つことを祈って。
二〇一五年四月
杉江義浩