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世界仰天旅行
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旅行
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──エチオピア──ああ、エチオピア

『世界仰天旅行』
[著]酒井ひかり [発行]彩図社


読了目安時間:57分
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 子供の頃、「川口浩探検隊」が大好きだった。川口浩がカメラマンと照明の後で、安全を確認してから洞窟に入る姿、その後姿を盲目的に愛していた。


 入ってすぐにピカピカの白骨がこれ見よがしに転がっている洞窟で、仕込んだかのように突然現れる毒蜘蛛、毒蛇、謎の石器民族、人食いワニ、原始猿人バーゴン、人食い人種などなど、出た出た、出る出ると、煽るだけ煽って、最後には「結局この冒険はなんだったんだっけ?」と混乱だけを残す、子供さえも納得させられない探検隊に心をときめかせていた。ドキドキしていた。水曜日の夜7時半からテレビの前で正座して、がぶりよりで観ていた。


 そんな夢と希望の探検隊だけど、子供の私にとって、TVに映るその景色は、遠い遠い、幻の話すぎて、観るたびにどこか寂しい気持ちになっていた。


 でも、いつか、あの場所に行きたい。探検隊に入りたい。


 幼い私はテレビの前で探検隊入隊を信じて疑わなかった。だからこそ、川口隊長が亡くなり、番組が終わったときはショックで、それこそ信じられなかった。ああ、男汁1000%の探検隊に入りたかった。



 時が経ち、川口隊長の冒険も遠い遠い思い出となった頃、あの番組が蘇った。そう探検隊シリーズ。新たに藤岡弘を隊長に迎えた探検隊シリーズはある年、エチオピアの奥地に向かった。


 ここで私の目を引いたのは「ムルシ族」という下唇にお皿(リッププレート)をはめ込んだ民族だった。川口隊長の冒険に出ていたような、いかにも未開のイメージが漂う民族である。ムムム、これは会いたい。でも、普通では行けない奥地にいるんじゃないのか?


 ところが、そのムルシ族はなんと普通の村にいたのだ。アマゾンの奥地ではなく、村の市場に。


 こっ、これは簡単に会えるんじゃないのか?


 よし、行こう。ムルシ族に会いにエチオピアに行こう。私にとってその景色は、もう幻ではないのだ。


◆深夜に到着、エチオピア

 ムルシの村に行くために、私はまずエジプトのカイロからエチオピアの首都アジスアベバに飛ぶことにした。カイロ発の飛行機はスーダン・ハルツームを経由し、目的地アジスアベバに到着するのは深夜になる。


 うーむ、初めての国に深夜到着は怖い。空港内に休むところさえあれば、朝まで待ってバスに乗ってもいいのだが、エチオピアの空港はきっと雨ざらしのプレハブの建物で、休むところなんてないんだろうしなあ(妄想)。


 夜に1人でタクシーには乗りたくない。怖いし、嫌だなあ。

「どうしよう……深夜に1人は怖いなあ」


 そんなことを出発当日、サファリ(カイロの日本人宿)のリビングで情報ノートを読みながら呟いていると、「どどど、どこに行くんですか?」と隣のソファーに座っていた、カズオ君が話しかけてきた。カズオ君はサファリで出会った旅行者で、分厚いレンズの黒縁眼鏡をかけている。

「エチオピアだよ」


 私が答えると、レンズの奥の目が光った。

「エエエエエ、ボッ、ボクも今日、エチオピアに行きますよお」


 なななな、なに~。それは本当か?

「本当に? 何時の便?」

「ゆっ、夕方の4時です……」

「うわっ、一緒だよ」


 ヨシ、よくやった。これは本当に嬉しい。ラッキーだ。私と同様にカズオ君も盛り上がっている。

「ままままま、マジですか?」

「うん。夕方の4時。一緒だね」

「夜に着くから1人でどうしようかと思ってたんですよ」


 私もよ、ミートゥー。やっぱり初めての国に深夜に1人で着くの怖いもんねえ。私たちは顔を見合わせて頷いた。いやー、なんてラッキーなのだ。


 頭だけを小刻みに動かしているカズオ君の口元はどことなく微笑んでいるように見える。どうやら彼も嬉しいようだ。そんなわけで、偶然にも同じ飛行機に乗るカズオ君と、一緒に行動する約束をした。


 空港にも一緒に行こうと約束したのだが、昨日ネットカフェで知り合った日本人旅行者と出発前に韓国料理屋で焼肉を食べようと約束していたことを思い出した。そうだ、たしか奢りだと言っていた。

「ごめん。ちょっと友達と約束してるんで出てくるよ。1時前には帰ってくるから」


 カズオ君に伝えて、慌てて宿を飛び出した。



 奢りの焼肉ランチを堪能し、約束通り1時前に戻ってくると、なぜかカズオ君はいなかった。どうしたのかと思い、宿で知り合った仲間に尋ねる。

「あれ? あの大学生の子は?」

「ああ、あの子はもう出かけたよ~」


 周りの子が言うには「待っていれば」という意見に耳を貸さず、挨拶もなしに出ていってしまったようだ。うそーん、なんでえ? まだ時間は間に合うじゃん。1時に帰ってくるって言ったのに。


 まあ、いいか。お互いなにか勘違いしてるのかもしれんしね。人に期待しすぎてはいけない。なんて思いつつも、なんとなく寂しい気持ちで空港行きのバスに乗ると……OH! なんてこった。


 カズオ君が不機嫌そうな顔で座席についていた。うわあ、いたよ。いるんじゃん。

「あれ? 結局一緒になったね」


 冷静を装って話しかけ、そのまま通路を挟んだ隣の席に座った。待っていてくれてもいいじゃないかと思っていると、カズオ君は外を見たまま超重低音で呟いた。

「まあ、乗るのはこのバスに決まってますからね」


 なんとなく不穏な空気が流れている気がする。決まっているって言っても、あなたが乗るバスの出発時刻なんて知らなかったよ。でも、まあ、いいよ。お互いなにか勘違いしてるだけかもしれないしね。


 バスがカイロの国際線ターミナルに着くと、カズオ君は私など気にも留めずに、1人でさっさと歩き出してしまった。私はぽつんと座席に残される。あれ~、一緒に行きましょうって言っていたのは幻聴だったのだろうか。


 あっ、それとも私だけ焼肉ランチを食べたのを怒っているのかしら。タレの匂いプンプンさせやがってとか思われてるのかしら。ああ、食べ物の恨みは怖いからなあ。でも連れていくわけにはいかなかったしなあ。


 猫背のカズオ君はズンズンと進んでいき、あっという間に姿が見えなくなった。その後、出発ロビーで見付けたが、カズオ君は私と微妙に間合いを取っている。これはどうしたことだろう。宿では「よっ、よかった、一緒に行く人がいて!」と言ってたのに、なぜ今になって避けるのか。


 私は混乱しながら、あれは社交辞令だったのか、それとも今照れているだけなのかと考えたが、答えは見付からない。あまりこだわっていても、こちらのほうが疲れてしまうので、しかたがないと割り切ることにした。一緒にいかなければならない決まりなど、そもそもないのだ。



 飛行機がエチオピアの首都アジスアベバに着いたのはほぼ予定通り夜11時過ぎだった。相変わらずカズオ君は私のことなど目もくれず、猫背の背中を更に丸めてズンズン行ってしまった。無言で行ってしまったカズオ君の背中を眺めながら、私は今夜は空港に泊まろうと考えていた。


 アジスアベバの空港は、想像していた雨ざらしのプレハブの建物ではなく、新しく広くて白い、まぶしいくらいにキレイな建物だった。1階には明るい24時間オープンのカフェもある。ここならば朝までいても危険はないだろう。

「うん、空港に泊まろう」


 そう決めて到着ロビーを抜け、今夜の野宿スペースを探していると、ぼーっと立っているカズオ君の姿が目に入った。


 なにをしてるのだろうと思ったら、彼は何事もなかったかのような顔で近付いてきて、「タクシーどうします?」と聞いてきた。私の頭にいくつもの疑問が浮かぶ。


 ん? なに? 結局、一緒に行きたいの? だったら今までの態度はなんなんよ。


 なんて言いたいところだけど、面倒くさいので「そうだねえ、とりあえず探そうか」と呟いて一緒に歩き出した。



 空港ロビーを出ると、さっそく駐車場で待機していたタクシー運転手連合がワラワラと群がってきた。無言で体の大きい黒人たちが近付いてくるのは威圧感がある。せめて「タクシー?」とでも言いながら来てほしいものだ。


 密着するように側に立ってから、やっと声がかかる。

「ヘイ、どこまで行くんだい?」

「ピアッサのパークホテルだよ」


 私とタクシー運転手との交渉が始まった。カズオ君はそんな交渉など他人事とばかりに、隣の駐車場に止まっているセルビス(路線乗合タクシー)を凝視している。そしてブツブツと呟き始めた。

「あそこにセルビスが止まってる。タクシーじゃなくてセルビスがいいんだけどなあ……」

「こんな夜中には動いてないんじゃないの? 気になるなら動いてるか聞いてきなよ」


 無視してもよかったのだが、焼肉ランチに誘わなかった負い目から返事をしてしまった。

「まあ、この時間は動いてないかもしれないですよね」


 うん、動いてないだろうね。深夜0時だし。

「聞かないの?」


 気になるなら聞いてきなさいよ。

「動いてないと思うんですよね。でもなあ、あそこにあるからなあ。タクシーじゃなくて……」

「気になるなら聞いてきなよ」


 聞いたらいいと思うよ。

「まあ、この時間は動いてないかもしれないですよね」


 何度もブツブツと言うだけで、一歩も動こうとしない。ラチが明かないのでフットワークのやや軽い私が代わりに近くにいた空港係員らしきおっさんに聞いてみると、やはり今の時間は動いてないという。

「カズオ君動いてないってよ」

「でも、そこにセルビスがあるし……。乗せてくれるのかも……」


 私が伝えてもカズオ君は相変わらずブツブツと呟いているだけだ。

「そこにセルビスが……。そこにセルビスが……」


 また私が近くのおっさんに聞いてみた。

「動いてないって言ってるよ。車はあるかもしれないけど、今日の運転は終ってるんだよ」


 するとカズオ君は私に向き直って、覚えたてのアムハラ語(エチオピアの言葉)で呟いた。

「イグザビヘルン?(神に誓うか?)」


 パードン? つーか、なんで私にアムハラ語で言うん? しかもそれって、今朝私がコピーしてあげたアムハラ語ノートに書いてあったやつじゃん。覚えたてか。使ってみたかったんか。そうなのか。そうなのか? カズオ君という人がまるでわからない。私はこの人と行動していていいのか不安になってきた。カズオ君はまだセルビスにこだわっている。

「でっ、でも、セ、セ、セ、セルビスあるし、値段いくらぐらいなんですかね」


 自分で聞いたらいいと思ったが、動こうとしないので、また私がセルビス付近にいたおっさんに聞いてやった。5ドルという返事。

「5ドルって言ってるよ」


 カズオ君に伝えると「フザケんなッ!!」と人の顔も見ずに、恐ろしい重低音で呟いた。

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