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(2021/11/26 追記)

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人工知能が人間を超える シンギュラリティの衝撃
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はじめに

『人工知能が人間を超える シンギュラリティの衝撃』
[著]小池淳義 [発行]PHP研究所


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 つい先日、私は自社(サンディスク株式会社)の開催した講演会の壇上に立っていた。借用した市民会館に、四〇〇人を超える仕事を終えた従業員が集まっていた。


 一人ひとりの従業員が、その生涯にいろいろなキャリアを積み、それがひいては、いろいろな角度から会社を進歩させる要素になっていくべきであるというのが私の持論である。この日、心理学者の講演が予定されており、その前に話をしろというのが、人事からの依頼であった。


 最近、多くのことが起こり、休みも取れずに働きどおしだったので、その日の午後は、休暇を取って、前々から計画していたことを実行していた。それは、鈴鹿サーキットにて、スーパーバイクによるフルコースの走行である。


 一カ月前、悪天候の中を走行してコースのイメージはなんとかつかんだものの、晴天時のその日は路面の状態が全く異なり、安全に走行するには、バンク角、スピードをうまく操るのが至難の業であった。しかし、初の快晴のこの日、名門コースを時速二〇〇〓を超えるスピードで風をきって走れたことに極めて満足していた。


 プロレーサーでもない私が六〇歳を過ぎたこの歳で、そんなことを実現できたのは、電子制御のとてつもない進歩によるところが大きいが、会社の誰にも語らずに秘かに進めてきたことだった。


 晴天でとても気持ちがよく、とてつもなく前向きになりそうだ。「そうか、これこそが、キャリア育成に重要な例かもしれない」と思った瞬間、つぎの行動をとった。フルコース三〇分走行を二回行い、レーシングスーツを着たままの姿で鈴鹿サーキットから四日市へ向かった。今回は、新調した、世界チャンピオンのロッシー並みのブルーのレーシングスーツだ。


 会場に乗り込み、レーシングスーツとヘルメットを被ったままの姿で壇上にとび上がった。そこからみなを一旦見渡してから、後ろを向いてヘルメットを脱ぎ、再び正面を向いた。壇上にいるのが私であることがわかると、一瞬の沈黙の後、その日の講演会に集まった従業員数百人から大きなどよめきの声が上がった。


 この瞬間のみんなの驚きの眼差しを見て、肉体的にはクタクタではあったが、走って来た甲斐があったと思った。みなに、残っていたエネルギーを使い切って呼びかけた。新たなことに挑戦して、視野を広げ、人生の喜びを享受しようと。



 私は、半導体の技術者であり、サンディスク株式会社の代表取締役社長であり米国ウエスタンデジタルコーポレーションの上級副社長を務めている。東芝とのジョイントベンチャーの責任者であり、わが社だけで、一兆円以上の投資をこの四日市に決めてきた。このフラッシュメモリの日本の製造技術は最高であり、世界に誇れる資産であると信じている。


 自分の人生を振り返ると、まさに日本半導体の歴史そのものであったかもしれない。


 早稲田大学大学院理工学研究科を卒業して、日立製作所に入社した。米国からその技術の偉大さを学び、それを日本独自の製造技術と品質の高さに仕上げ、飛躍的な成長を遂げることにより、恩師である米国を抜き去ったこともあった。しかし長期的な経営ビジョンとスコープがないために、韓国、台湾、そして次を見定めた米国に完敗する。


 私は、幸運にも、新しく生まれた技術と遭遇し、日本人の得意とする製造技術において奇抜なアイデアを発想して、これを育てあげる機会に恵まれた。それから二〇年かけてこの夢は実現し、世界一速く半導体を生産する全く新しい工場を創ることができた。


 しかし当時の経営判断は、世界的なビジョンに追いつかなかった。気持ちを新たにして、一一年前から、サンディスクでフラッシュメモリの新製品開発に挑戦することになる。ここでは東芝と一緒になって世界一のメモリ生産の座の奪還に挑むことになった。


 サンディスクの工場がある三重県四日市での初日、私の入社歓迎パーティーがあり、三〇人のエンジニアが迎えてくれたが、「全員と会いたい」といったら「これで全部です」と返されて、大きなショックを受けた。当時のサンディスクのエリ・ハラリCEOからは「小池さん、あなたに東芝と五〇対五〇の対等にやる大きなプロジェクトを任せる。とっても大事なポジションだ」といわれていたので、人数の少なさにびっくりしたのだ。まず、サンディスクのエンジニアを増やさなければならないと思った。


 当時、日本の半導体はメーカーもベンダーも下降気味だったが、かえってそのことがこちらにとっては幸いした。全国のいろいろな分野から日本半導体の優秀な人間を集めることができた。今では技術的に対等に議論と運営ができる組織ができつつある。


 あっという間に数年が過ぎ、次に大変だったのは、ウエスタンデジタルとの事業統合だった。「これからはストレージ(記憶装置全体の総称)の総合カンパニーとしてやっていく」と宣言したが、「小池さん、この前までハードディスクを潰してわれわれのSSD(ソリッド・ステート・ドライブ)の時代が来るって話していたじゃないですか」といわれ、今では笑い話になるが、当初の統合の仕事はそう簡単ではなかった。


 しかし、ストレージの本質をよく知っているウエスタンデジタルと組むことで、世界をリードすることになる。結果として大正解だった。ウエスタンデジタルには強いリーダーがいる。スティーブ・ミリガン(Steve Milligan)CEOは、誠実で信頼できるリーダーである。従業員含めて人々の幸せを考えられる魅力的な人間だ。何より日本のものづくりと文化の価値がわかっている。


 こんな環境で、幸福なことに日々創造的なエンジニアと技術革新に邁進している。



 そんな中、一〇年前から一つのことが気になりだしていた。最近話題になっているシンギュラリティである。


 われわれは日々努力をして半導体技術を進歩させ、その結果、従来では想像もできなかった機器を創造し、とても便利な社会を築いてきた。技術の進歩が生活を豊かにしてきた立役者であると信じてきた。


 私がとてもショックを受けたのはレイ・カーツワイルの本『The Singularity is Near』(邦題『ポスト・ヒューマン誕生』NHK出版)を読んでからである。それまで頭の隅にあった疑問が一気に広がった。人類は機械(マシーン)に取って代わられるということが、空想ではなく現実的な問題であることを認識したのである。それまでは映画やフィクションの世界であった。


 私自身、技術の進歩に携わり、これを実行してきたので、レイ・カーツワイルのいうことは極めて納得の行くものであった。近年再び、第三次AI(人工知能)ブームを迎え、このシンギュラリティという言葉も広まり、認識が高まっている。


 しかし、これを現実の問題として捉えている人は極めて少ないと思う。技術の進歩を毎日体感していて、その立役者でもある半導体技術のエンジニアですら、シンギュラリティを自分の問題として捉えていない。


 なぜなら、あまりに技術の開発が早いためである。とても一〇年後、二〇年後、そして三〇年後の世界などを考える暇がなく、それどころか、世界のライバルに勝つために、平均の人より近視眼的になり、明日のことや一年後のことしか考えていないのが現実である。


 いまや「IoT(Internet of Things:モノのインターネット)時代」を迎え、ディープラーニングやAIの恩恵ははかりしれないものがあるだろう。これらの技術進歩により、しばらく、人類はその成果を享受できるだろう。しかし、問題はその先である。技術の進歩はますます加速して機械の能力が人間の能力をはるかに超えるときが来るというレイ・カーツワイルの予言を私は正しいと思う。その技術的進歩のネガティブな側面についても、警告的な議論が世の中で大いにされている。



 書店に毎月のように新しく出てくるディープラーニングやAI関係の雑誌や書籍を前にして、私は思った。


 いずれも優れた専門家があらゆる方法から分析し、その是非を問うている。悲観的に見る人もいれば、極めて楽観的に分析する人もいる。しかし、わずか三〇年後に人類は破滅するかもしれないという危機に対して、人類は今後どのように対応していくべきか、ということを書いてある本が少ないと。


 機械(マシーン)と人間の本当の違いは何であり、この両者が融合する世界はどういうものか、どうつくれるのか。


 マシーンは忠実な人間の道具であった。人間の目的に合わせて、進化を遂げてきた。今問題なのは、この逆転が起きるかどうかである。このまま、人間が何も考えずにその成果を享受していると、まさしく映画『ターミネーター』の世界がくるであろう。


 マシーンが成長するとともに、人間からの指示に疑問をもって質問をしてくるだろう。「この作業の目的とゴールは何か」と。進化したマシーンはさらに究極のゴールを尋ね、人間に聞くことが正しいかを判断するようになるだろう。


 そのとき、人間が、このマシーンに負けない目的とゴールを持っているかが勝負である。マシーンが納得して、崇高なゴールを持ち、かつその姿勢を絶えず、マシーンと共有し、コミュニケーションをとっていれば、人類は滅びることはないだろう。


 そこで、人生の目的とは何かを探るために、私の体験を少しでも読者の方々と共有できればと思った。比較的若いうちから、このことを意識する機会と、幾つかの事件に遭遇した。あまり普通では体験しないようなことも含まれていると思う。今回の機会がなければ、一生話さないでおこうと考えたこともある。しかし、読者になってくれる方々の生き方の転機になると信じて、この本を書くことを決めた。



 今日から、三〇年後をわれわれはしっかり意識して、マシーンに負けないゴール、目的を持つ努力をしなければならない。シンギュラリティの到来を前提にしていえば、人類は、結局、このテーマを誕生時から追い求めてきたことになる。


 あと三〇年というと、「私は生きていないから関係ない」という人もいるかもしれない。しかし、人類の存続の鍵を握る時代を生きることは間違いないし、大切な家族の将来がかかっている。ましてや、そのときに人類を先導することになる若い世代はいうまでもない。


 われわれは、今までの人類とは役割が違う。その存続をかけた責任を負っている。大変な時代に生まれてきてしまったか?


 それは違う。われわれは、人類史上最もエキサイティングな時代を生きることになるのである。



 二〇一七年五月

小池淳義 

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