『世界恐怖旅行 波乱の東ヨーロッパ編』
[著]大井優子
[発行]彩図社
私はこれまで50ヶ国以上を旅してきた。持ち前の好奇心の強さと行き当たりばったりの性格が災いして、さまざまなトラブルに巻き込まれ、命の危機を感じたことも一度や二度ではない。それらのエピソードを綴った前作『世界恐怖旅行』を刊行してから早7年が過ぎ、私の周りには大きな変化があった。
私は出身地である沖縄を出て、神奈川県に新しい居を構えていた。そして2008年1月には結婚してしまったのである。これでワケの分からないことばかりしている私も落ち着くだろう。周囲の人はそう思っていたに違いない。
しかし、旅熱とは、人妻になろうがおさまらないものである。
入籍からわずか2ヶ月後の2008年3月、旦那を日本に置き去りにして、私は単独で、東ヨーロッパを含む旧ユーゴスラビア圏を巡る3ヶ月間の旅に出た。
その旅程は、この本の編集中に女子大生が事件に巻き込まれ残念ながら命を落としてしまったトルコから入り、ブルガリア、ルーマニア、ハンガリー、スロヴァキア、スロヴェニア、クロアチア、モンテネグロ、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、セルビア、マケドニア、アルバニア、コソボ、ギリシアという14ヶ国を訪れるものである。
そのうちのほとんどが日本人には馴染みが薄い国であり、私自身、訪れてみるまでどのような場所なのか想像もつかないところばかりだった。
特に現在は7の国に分かれている旧ユーゴスラビア圏は、日本人が観光旅行で訪れるには心理的にも地理的にも遠い、ベールに包まれた地域である。
旧ユーゴスラビアは、1991年から2000年にかけて内戦が勃発し、セルビアではNATO軍の空爆を受け、2008年にはコソボ自治州が共和国として国連に承認されるなど、怒涛のごとき変化を遂げている。
ひとくくりに旧ユーゴスラビアと言っても、それぞれの国が見せる顔は異なり、抱えている事情もさまざまだ。そのようなつい最近までドンパチしていた地域に新婚ほやほやで旅立つなんてクレイジーだと友人からは言われたし、旦那にとってはさぞかし勇気のいる決断だっただろう。
そして、事件は早くも旅の初日に訪れた。目が覚めると下半身裸の男が馬乗りになっていた。それからもルーマニアの革命広場では暴動に巻き込まれ、ボスニアでは銃撃戦の傷跡が生々しく残る廃墟でホームレスとバーベキューをし、セルビアではジプシーの悪ガキにシンナーをぶっかけられた。
「気をつけて旅行をしてきます」という旦那との約束はどこへやら非常にスリリングで思い出深い旅行になった。本書には主に私が遭遇した事件や事故などを記した。
しかし、確かに危険な目には遭ったが、それ以上に、これまで謎に包まれていた国の素顔を見ることはとても新鮮で、楽しいものだった。東ヨーロッパ、そして旧ユーゴスラビア圏には旅人の心をかきたてる魅力がある。
本書を読むことで、それらの国を覆っていた秘密のベールを少しでもめくったような気持ちになっていただければ、筆者としては光栄である。
3ヶ月間の旅程(経路順)
トルコ
ブルガリア
ルーマニア
ハンガリー
スロヴァキア
スロヴェニア
クロアチア
モンテネグロ
ボスニア・ヘルツェゴヴィナ
セルビア
マケドニア
アルバニア
コソボ
ギリシア
(2008年3月27日~2008年6月25日)