『ことばのセンス』
[著]楠本憲吉
[発行]PHP研究所
今の世の中、他人の知恵とか能力を利用する巧みさもまた、立派な才能だという。つまり、相手のできることは遠慮なく依頼してやってもらうことこそ賢明というわけだ。
そういう意味からすれば、
「お願いいたします」
という言葉は、最も素直な、かつ美しい心の表現であるともいえよう。
日常生活において、およそ依頼事などしたことがない、というような人は、恐らく誰一人としていないであろう。むしろ依頼事は誰でもしばしばあることだ。
何事によらず、相手を説得して、こちらの依頼を聞き入れてもらうためには、何よりもまず、相手の性格や心理状態などをよく知った上で頼むことが肝心である。
さらに相手に安心感を与えることも忘れてはならない。ことに紹介や保証人を依頼する場合は、相手に安心感を与えることが大切で、
「決してご迷惑をおかけしません」
ということを、一度ならず、二度、三度と繰り返していうべきであり、そうしたあげくに、相手がこちらを一〇〇パーセント信頼してくれれば、その依頼事は、まず成功したとみてよいだろう。