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生き方・教養
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II ことばの歳時記

『ことばのセンス』
[著]楠本憲吉 [発行]PHP研究所


読了目安時間:36分
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  初昔



 「初昔」は新年の季語。元日に前年を顧みてという意で、俳諧独自のことばである。「初昔」のことを「宵の年」ともいう。


 来る年とともに現在であったものもはっきりと過去に送りこまれ、過去はさらに遠ざかる。そうした思いをこめた語である。


 「去年今年」というのは、一夜にして、去年と今年とに年が移り変わることをいう。



   去年今年貫く棒の如きもの    虚子



 また茶の世界で「初昔」といえば、三月二十一日に摘んだ上等の煎茶・抹茶のことをいう。それは廿一日を合わせると昔という字になるところから出たことばである。近松に「互に濃茶の初昔」という話が出てくるのはこれである。



   恍として高涛の月はつ昔     蛇笏



  草石蚕(ちよろぎ)



 滴露とも書く。甘露子とも。


 紫蘇科に属する多年草で、高さ三〇~六〇センチに達し、全株に粗毛を生じ、葉は卵状披心形で対生、葉腕に紅紫色の唇形花を(そう)(せい)する。根は念珠形をした塊茎で一連六~七節からなり、チョロギはこの塊茎の名で、もと朝鮮語のミミズに当たるという。


 日本では赤く染めて正月料理の黒豆の中にまぜる。中国原産で徳川時代に舶来したもの。



  正月祝膳(関西風)



 まず、先付として紅白なますが出、座つき吸物は白味噌仕立てのお雑煮、二日が澄まし、三日がまた白味噌仕立て。


 重詰は一の重から与の重まである。


 一の重は口取りといわれる八寸もの。酒の肴と考えてよいだろう。二の重は造り、三の重は焼物、与の重は煮染(にしめ)物。五の重付きの場合は、預り重といって、それぞれの重に入り切れなかったものを詰めて補充用にする。



  炭火の尉



 炭火の燃えた後の、白い、ふわふわした灰のことを(じよう)という。そのさまが老いたる人の白髪に似ているからである。


 老人のことを「丈」という。この丈というのに尉を仮用したという説がある。


 一体、尉は検非違使官のこと。長官(かみ)次官(すけ)判官(じよう)主典(さかん)を四等官として、第三等の官名はすべてジョウで、文字は違っても訓は同じであった。


 尉はまた能楽では翁またはその能面のことをいった。浄瑠璃では椽と書いてジョウとよむ。歌舞伎でジョウといえば丈と書く。丞と書けば補佐のことで、各省の第三等官のことをいった。



  晦日正月



 一体、都会では正月というと、せいぜい、松の内ぐらいまでだが、正月の「正」には、「改まる」という意味があるので、本来、正月とは「年が改まる月」、すなわち一月の別称なのである。


 この正月は、三が日はむろんのこと、七日を七日正月、十一日を田打ち正月、十五日を小正月、二十日を二十日正月、二十五日をしまい正月、三十一日を晦日正月といって、その日ならではのご馳走を作ったり、仕事を休んだりして、特にお祝いをする。


 晦日正月にはソバを食べるのが習わしである。


 ところで、このソバだが、モリとザルの違いをご存知だろうか。


 のかかっているのがザルではない。


 モリとザルの違いは、まず、ソバのよそい方が違う。モリはセイロに盛り上げ、ザルは「サクラ」と称して、ザルに見た目にきれいに盛る。


 タレも違う。ザルの場合は「口みりん」をつけるといって、みりんを加えて作るのが、本来のタレなのである。


 きれいに盛られたザルソバの「姿」には、まん中にほどけ口があるものだから、ほどよく箸で引きあげながら食べる。所構わずに箸を突込むと、始末がつかなくなる。食べたあとで、汚ならしく残さないのがエチケット。そばつゆは、すこしずつ何度にも、つぎ足すと、終わりまで味よく食べられる。



  探梅



 俳句の冬の季語に「探梅」というのがある。


 立春も近くなったころ、早咲きの梅の花を探しにゆくことを意味する。別に「梅探る」ともいう。


 探梅が、いわゆる観梅と違う点は、観梅が梅の名所の、用意されたパッケージ的自然を君も私も見物に行く感じが強いのに対して、探梅は「花唇ほころぶ」とはいうものの、枯木の中にチラホラし始めた一、二輪を、どこに咲いているかもわからないままに、あちこちたずね歩くところにある。


 今頃の時期に、梅の花など、どこに咲いているのかわからない、あるいはどこにもまだ咲いていないかも知れない、それでもあえて探梅におもむく……。結局、探梅は、早咲きの梅の花を探しに行く、というよりも、冬ざれのなかに春の先ぶれを見つけに行く、ということかもしれない。

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