『タダより高いものはない』
[著]上念司
[発行]イースト・プレス
間違った前提をもとに人々を不安に陥れ、思考停止状態に追い込んだうえで、バラ色の解決策を示す。それがカモ釣りのテクニックです。バラ色の解決策とは、必ずしもその問題の最適解ではありません。むしろ、最適である必要などなく、罠をしかけた人たちがいかに儲けるかというのが最重要課題です。これがカモ釣りの本質です。
たとえば、消費税を増税しないと日本が財政破綻するなどと吹聴している人がいますが、言っていることにまったく根拠などありません。そこにあるのは利害のみです。財務省は増税することで権益を拡大し、そこに群がる政治家や学者は、そのご相伴にあずかるだけです。
だいたい、日本の財政再建はすでに終わっているんですから当然です。むしろ、不必要な増税で国民を痛めつければ、投資が減って、将来世代に大きなツケを残すことになるでしょう。彼らは「将来にツケを残すな!」と言いますが、彼らの言うとおりにすれば、間違いなくツケが残ります。いや、すでにツケはたまってしまったのです。
教育への投資をケチりまくった結果、「日本の科学技術力が衰退の危機」に直面しています。日本経済新聞は次のように報じています。
文部科学省の科学技術・学術政策研究所の調べでは、世界で引用される回数が上位一〇%のトップ論文のシェアは二〇一二~一四年の平均で五・〇%。世界ランクは一〇位と、一〇年前の四位から大きく後退した。躍進する中国だけでなく、オーストラリアやスペインなどにも抜かれた(引用者注=図表11‐1)。(55)
非常に残念なのは、同じ時期に緊縮政策一辺倒だったドイツ、フランス、イタリア、スペインなどの欧州諸国にまで抜かれていることです。日本の財政危機を過剰に煽ることで、財務省の権限は強化されましたが、科学技術力は大幅に落ち込みました。戦争がへたくそな大本営が、最強の帝国陸海軍を死地に追いやった、忌まわしい過去がオーバーラップします。
たとえば、財政再建原理主義ひとつを取ってみても、それに加担する政治家、学者、官僚たちに責任感など微塵もありません。もちろん、国民にとって耳の痛いことを、身を切って言っているかのような演技は上手ですけれども、それはあくまで演技なので、騙されないようにしましょう。仮に、それが演技でない場合は、恐ろしくバカなやつがこの国を牛耳っているという点に危機感を覚えてください。
彼らは基本的にUFOのビリーバーみたいなものです。夜に星空を見上げると、流れ星や飛行機までUFOに見えてしまう。見たいと思っているものが見えてしまうのは、そこに強い利害関係があるか、頭が弱くて洗脳されているかのどちらかですから。
政府がバックにいるからといって、その事業がすべて成功するわけではありません。地方の活性化のために投入された補助金は何兆円にもなります。しかし、地方から聞こえてくるのは、人口が減った、商店街がシャッター通りになった、若い人が出ていってしまったといった声ばかりです。
ところが、そんな失敗事例が山ほどあるにもかかわらず、相変わらず地方創生を名目とした補助金は投入され続けています。今後も天文学的な金額の補助金が投入され、なぜか地方は衰退の一途をたどるというパラドックスは続きます。これも消費増税と同じで、このビジネスモデルで食っているやつがいて、そいつが甘い、甘い政策を吹聴しているのです。そして、安易な補助金の投入で生まれた過剰スペックの施設を維持するために、地方に暮らす人々は一生、十字架を背負って生きていかなければなりません。補助金投入を決めたやつ、受け入れを決めた自治体の首長や役人は、まったく責任を取りません。
土地が値上がりすると言っていた人や、大企業はつぶれないと言っていた人、高利回り、元本保証を謳う金融商品を販売していた人、彼らは責任を取ったでしょうか? ほとんどが責任を取る前にどこかに消えてしまいました。そして、騙されたほうは最後まで詰め腹を切らされます。カモと釣り師の不平等な関係は永久に続くわけです。
本書をお読みいただいて、世にあふれる甘い、甘い政策、身を切るような演技のオブラートに包まれた、痛みをともなう政策のいい加減さ、根拠のなさにお気づきいただけたでしょうか? 民主主義という政治体制も資本主義という経済体制も、つねにカモ釣りの場になりやすい脆弱性を持っています。釣り師は利害で動いているだけです。カモがいるかぎり、釣り師は存在し続けるでしょう。私たちはカモにならないために、釣り師の背後にあるロジック、利害関係などをよく理解する必要があるのです。本書がそのための一助になれば、筆者として幸甚の極みです。
上念司
(55) 図表11‐1に同じ。