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明治日本の産業革命遺産
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歴史
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1.「世界遺産」とは

『明治日本の産業革命遺産』
[著]柳澤伊佐男 [発行]ワニブックス


読了目安時間:8分
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三つのジャンルがある「世界遺産」



 今年(2015年)7月、ドイツのボンで開かれたユネスコの世界遺産委員会で、「明治日本の産業革命遺産」の世界遺産への登録が決まりました。テレビや新聞の報道でご覧になった方も多いと思います。


 ひとくちに「世界遺産」といっても、その中に三つのジャンルがあるのを、皆さんはご存知でしょうか。「文化遺産」と「自然遺産」、それに「複合遺産」の三つです。


 この本が取り上げる「産業革命遺産」は、「文化遺産」のジャンルでの登録です。


 世界遺産の定義などを示したユネスコの「世界遺産条約」によりますと、「文化遺産」は、記念工作物(monument)、建造物群(group of buildings)、遺跡(sites)の三つが対象となります。このうちの「記念工作物」ですが、歴史上、芸術上の記念碑的な意義が認められる建物などを指します。英語の「モニュメント」という言葉の方がイメージしやすいかもしれません。世界で最大のゴシック様式の建物として知られるドイツのケルン大聖堂などが、この「記念工作物」に該当します。


 また、「遺跡」については、地下に埋まっているものだけではなく、「(たな)()」のような自然の風景と一体となった「文化的景観」も含まれます。


 これに対して「自然遺産」は、自然の風景や稀少な動物・植物の生息地などが対象になっています。


 そして、「複合遺産」は、「文化遺産」と「自然遺産」の両方の要素を備えたものが、登録の対象です。


1000件を超えた世界遺産


「明治日本の産業革命遺産」は日本で19件目の世界遺産になりましたが、本題に入る前に、世界遺産の歴史を簡単に振り返ってみたいと思います。


 世界遺産の制度ができたのは、1972年(昭和47年)、今から40年余り前のことになります。誕生のいきさつについては、多くの世界遺産関連の書籍で紹介されていますので、ここでは詳しく取り上げませんが、エジプトの新王国時代の貴重な遺跡(ヌビア遺跡)が、ダムの建設によって水没することになり、この遺跡の救済を訴える世界的なキャンペーンが国連教育科学文化機関・ユネスコ(UNESCO、United Nations Educational, Scientific and Cultural Organization)の手によって始められたのがきっかけだといわれます。


 この取り組みがきっかけとなって、この年の10月、パリで開かれたユネスコの総会で「世界遺産条約」(正式には、「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」)が採択され、この条約を()(じゅん)した国や地域の文化遺産、自然遺産を「世界の宝」として保護する制度が始まったのです。


 実際に世界遺産の登録が始まったのは、条約が採択されて6年後の1978年です。これまでに(2015年7月現在)、1031件の「世界遺産」が登録されています。内訳は、文化遺産が802件、自然遺産が197件、複合遺産が32件です。


 国・地域で見てみますと、最も多いのは、イタリアで51件、次いで中国の48件、3番目がスペインで44件、以下、フランス(41件)、ドイツ(40件)メキシコ(33件)インド(32件)と続き、アメリカ(23件)は10番目、日本(19件)は、オーストラリア、ブラジルと並んで11番目になります。全体として、ヨーロッパの文化遺産が多く登録されていますが、これは制度が始まった段階で、教会建築などが「世界遺産」に登録されたためだという指摘があります。


 一方、自然遺産は、アメリカやオーストラリア、ロシア、中国などが上位を占めています。


世界遺産に登録されるまで



 それぞれの遺産が世界遺産に登録されるためには、一定の手続きを踏む必要があります。それはユネスコの「世界遺産条約履行のための作業指針」というものに詳しく書かれています。


 まずは候補の選定です。各国が推薦する候補は、世界遺産の「暫定リスト」に登録されたものの中から選ばれます。「暫定リスト」は「暫定一覧表」ともいわれ、それぞれの国が、世界遺産に登録する価値があると判断した文化・自然遺産が登録されています。ですから、それぞれの国の「暫定リスト」に登録されることが、世界遺産登録への第一歩になります。


 登録が実現するまでには、およそ2年かかります。初年度は、その年の9月30日までに推薦書(暫定版)をユネスコの世界遺産センターに提出します。推薦書は、ユネスコの主要な公用語、英語もしくはフランス語です。この手続きで、世界遺産の候補にエントリーしたことになります。


 そして、翌年の2月1日までに、推薦書の正式版をユネスコに提出します。日本では、この間、閣議了解が行われ、政府が責任を持って推薦する世界遺産の候補と位置づけられます。この推薦書(正式版)提出をもって、ユネスコの審査がスタートすることになります。


 各国から推薦された案件については、まず、ユネスコが諮問した専門機関による事前審査があります。このうち、文化遺産について事前審査を行うのは、文化財の保護にあたる国際的な組織(NGO)のイコモス・ICOMOS(International Council on Monuments and Sites)です。審査は非公開で、1年半近くかけて、推薦書を読み込んだり、現地を調査したりして、各国の案件が世界遺産として登録するのにふさわしいかどうかを評価します。


 その評価結果は、ユネスコの世界遺産委員会が開かれる6週間前までに「勧告」という形で伝えられます。


「イコモス」の評価は4段階



 イコモスの評価は、四つの段階に分かれます。評価が高い順に紹介しますと、「記載(登録)」(Inscription)、「情報照会」(Referral)、「記載(登録)延期」(Deferral)、「不記載(不登録)」(Not to inscribe)となります。

「記載」は、「世界遺産に登録することがふさわしい」という評価です。

「情報照会」は、追加情報の提出を求めた上で、次回以降の審議に回すべきというものです。この場合、現地調査を除いて、イコモスの審査をもう一度受ける必要があります。

「記載延期」は、より綿密な調査や推薦書の本質的な改定が必要で、一からやり直すべきという評価です。


 そして、「不記載」は、登録することがふさわしくないという評価で、同じコンセプトで再び推薦することは、ほとんどできなくなります。


 この評価結果を踏まえて、毎年6月ごろに開かれる世界遺産委員会で審議が行われます。イコモスが「記載」の勧告を行った案件については、本番の委員会で登録されなかったことは、ほとんどありませんので、世界遺産委員会の審議そのものより、イコモスの勧告の内容に注目が集まります。


 ちなみに、「自然遺産」については、IUCN(「国際自然保護連合」、International Union for Conservation of Nature and Natural Resources)という自然保護の国際的機関が事前審査を行います。一連の手続きは、文化遺産と変わりません。


登録を決めるのは、21の委員国



 世界遺産委員会は、ユネスコの国際会議のひとつです。世界遺産の登録の可否を審議するだけでなく、すでに登録された案件が、きちっと保護されているかをチェックしたり、戦争や紛争、環境問題などで消滅の危機に瀕している「危機遺産」の登録・解除を審議したりします。


 世界遺産に登録するかどうかは、世界遺産条約を批准・承認した国や地域の中から選ばれた21の委員国が審議します。文化遺産の場合、イコモスの勧告の内容を元にした決議案が用意され、登録の可否が審査されます。この会議に出席するのは、各国のユネスコ大使といった外交官が中心です。


 審議の様子は、最近、インターネットで中継されるようになり、リアルタイムで見ることができます。大まかな流れとしては、まず、それぞれの案件について、イコモス(もしくはIUCN)からの説明があり、諮問機関の評価どおりでよいか、委員国のメンバーが議論します。


「逆転」登録のケースも


「記載」の勧告が出ている案件については、その価値を評価する意見が相次ぎ、すんなりと「記載」と決議される場合がほとんどです。


 一方、「情報照会」、「記載延期」の勧告が出ている案件は、議論が白熱するケースがひんぱんに見られます。自分の国の案件については、たとえ委員国であっても、審議に参加することはできません。このため、なんとか「記載」に持ち込みたい国は、委員国のメンバーに決議文の内容を修正してもらうよう、水面下で働きかけを行っているようです。


 そうした働きかけがあってか、事前審査の結果とは異なる「逆転登録」が、近年続出するようになり、こうした世界遺産委員会の「政治化」がしばしば批判の対象になっています。


 ちなみに、今回(2015年)の世界遺産委員会では、登録された文化遺産23件のうち5件が諮問機関の評価結果とは異なる形で「登録」となりました。


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