読みたいトコだけ買える本。
犬耳書店
初めての方へ 記事一覧 無料登録 ログイン

12/21に全サービスをRenta!に統合します

(2021/12/6 追記)

犬耳書店は2021年12月21日に、姉妹店「Renta!(レンタ)」へ、全サービスを統合いたします。
詳しくはこちらでご確認ください。

0
-1
kiji
0
1
1145479
0
本当に不思議な世界の風習
2
0
2
0
0
0
0
雑学
お気に入りとは?

お気に入りボタンを押すとお気に入りリストにこのページが追加されます。興味のあるページ・気になったページを後から確認するのに便利です。

お気に入り お気に入り
vol.1 年頃の女性がさらわれた末に花嫁になる キルギスの誘拐婚「アラ・カチュー」

『本当に不思議な世界の風習』
[編]世界の文化研究会 [発行]彩図社


読了目安時間:5分
この記事が役に立った
2
| |
文字サイズ


  ある女子大生の受難



 2006年9月、アジア中央部に位置するキルギス共和国で、当時女子大生だった21歳のオクサナさんは、衝撃の事件に遭った。


 酔った若い男たちの手で、いきなり車の後部座席へ押し込まれたのである。


 彼女は叫び声を上げ、暴れて抵抗したものの、そのまま誘拐犯グループの1人の家に連れ込まれ、一晩監禁されてしまった。


 当然、オクサナさんは「帰りたい」と泣いたが、誘拐犯の母親と祖母は彼女を逃がすどころか、なんと「息子の嫁になりなさい」と説得し、その結果、本当にそのまま結婚することになったのである。


 普通ならば、これは誘拐、監禁、脅迫といった犯罪行為であると思われる。


 だが、この件は警察沙汰にならず、オクサナさんはその後も結婚生活を続けているのだ。


 というのも、キルギスではこうした「誘拐婚」が「アラ・カチュー」(「奪い去る」の意)と呼ばれ、驚くべきことに、農村部ではいまだに6080%もの女性がこの方法で結婚「させられている」状況なのである。


 オクサナさんのような出来事は、キルギスの若い女性たちにとって、「誰にでも起こりうること」というわけだ。




 誘拐の手口は、強引かつ行き当たりばったりのものも多く、恋人とデート中の女性を連れ去ってしまったり、あるいは、目当ての女性を待ち伏せしたが通りかからなかったので別の女性を誘拐したというケースもあるという。



  男性の家で一晩を過ごしたら



 男性が、1725歳のめぼしい女性を選び、親族や友人たちと共にその女性をさらって一晩自宅に監禁し、男性の両親や兄弟が女性をなだめ、説得する。


 そして、服従の証である「ジュールク」と呼ばれる白いショールを女性の頭にかぶせれば、婚約成立となる──以上が、大まかなアラ・カチューの流れである。


 国民の多くがイスラム教を信仰するキルギスでは、たとえそれが無理矢理であったとしても、男性の家で一晩を過ごした女性は(けが)れたと見られる。それゆえ、女性の家族も娘を奪回するどころか、「戻ってきたら家族の恥になる」と、そのまま嫁ぐように諭すという。


 中には、結婚を断固拒否し実家に帰る女性もいるが、男性の家で一晩過ごしたという事実が広まり、「不純な存在」扱いされ、その後の結婚は難しくなってしまう。


 国民の平均寿命があまり長くないキルギスでは、子孫を残す必要性から、「女性は25歳までに必ず結婚すべきだ」という考え方が根付いている。


 言い換えれば、25歳を超えた女性が独身のままでいるのは恥ずかしいことであり、そのような人たちは、周囲から蔑まれる人生を余儀なくされる。


 そのため結局、連れ去られた女性のうち約8割は観念し、「誘拐犯」を夫として受け入れるのだという。



  男がアラ・カチューを選ぶ理由



 アラ・カチューの起源は、12世紀頃、中央アジアで猛威を振るっていた蛮族が馬や女性を略奪する習慣から始まったという説、あるいはイスラムの教義によるものだとする説など、さまざまだ。




 しかし実際のところ、こうした歴史的な背景よりも「金銭面で助かる」という理由が大きいようだ。


 なぜなら、キルギスでは恋愛やお見合いなど、普通のプロセスを経て結婚する場合、日本円にしておよそ10万円弱と牛1頭を女性側に納めなくてはならないというしきたりがある。


 だが、庶民にとってこの金額は非常に高く、これが払えない、もしくは払う気のない男たちがアラ・カチューという手段を選ぶのである。


 しかも驚くべきことに、人権尊重が叫ばれる昨今において、この習慣は廃れるどころかジワジワと件数が増え、2009年にピークを迎えているのだ。


 その原因としては、解決しない農村部の貧困、旧ソ連の崩壊(キルギスは1991年までソ連の一地域だった)、戦争、独立運動などの不安定な情勢が考えられる。


 ただ、アラ・カチューが始まりでも結婚してしまえば仲睦まじい夫婦となるケースもあり、皆が皆不幸に陥るわけではないが、その前提には、やはり女性たちの「諦め」が必要だと言えるだろう。

“あらゆる良い結婚は涙から始まる”


 キルギスには、こんな格言が存在するほどなのである。



  違法ではあるものの



 しかしながら、実は旧ソ連時代から、アラ・カチューは法律で禁止されている。つまり、れっきとした違法行為なのだ。


 実際、キルギスでは「婚姻を目的に人を誘拐した者は最高3年間の禁固刑に処す」と定められている。


 にもかかわらず、男たちが逮捕されることはほとんどなく、さらに、一応違法であるためにアラ・カチューで結婚したほとんどの夫婦が、役所に婚姻届を提出しない。


 それゆえ、もし離婚した場合でも、慰謝料を求める権利など、女性に対しての法的保護が適用されないなどといった問題もある。


 2012年1月には、こうした現状を憂う議員から、誘拐婚を厳しく罰するための法案「イスラム婚姻法案」がキルギス国会に提出されたが、なんと否決されてしまう。


 というのも、キルギスでは誘拐婚のほか、一部の富裕層における「一夫多妻制」も違法でありながら黙認されており、前述の法案が可決されれば、どちらも厳罰化される。


 そのため、これを阻止すべく男性議員の多くが、「反対」の票を入れたのだった。


 議会がこのような有様なので、今後、アラ・カチューを減らしていくためには、当のキルギス男性たちの良心に賭けるしかなさそうだが、それもなかなか難しそうだ。


 AFP通信社の「キルギスにいまだ残る風習、『誘拐婚』」という取材動画における、キルギス男性の堂々とした笑顔と迷いのない言葉が、その罪悪感のなさをありありと物語っていると言えるだろう。

「僕も数年前妻を誘拐した。誰も警察に行かないよ。なぜかって? 伝統だからさ!」



この記事は役に立ちましたか?

役に立った
2
残り:0文字/本文:2346文字
この記事を買った人はこれも買っています
      この記事を収録している本
      この本で最も売れている記事
      レビューを書くレビューを書く

      レビューを書いてポイントゲット!【詳細はこちら】

      この本の目次