華やかな桃山風の小袖の上に金襴の袖なし羽織を重ね、若衆マゲに鉢巻き、腰には豪華な大小刀を帯び、胸には黄金の十字架のネックレスが燦然と輝いている。
歌舞伎の創始者・出雲の阿国の舞台姿はショッキングなものであった。
女が男装するだけでもめずらしいうえに、阿国の舞い踊る姿は当時の人々を熱狂させるに充分な目新しさを備えていた。
阿国は出雲大社の鍛冶職人である小村三右衛門の娘であるといわれ、『多聞院日記』の天正十年(一五八二)の項に「春日神社で、十一歳の国と八歳の加賀の二人の少女が『ややこ踊り』を踊って評判をとった」という記録から逆算すると、元亀三年(一五七二)の生まれということになる。