『吉本せいと林正之助 愛と勇気の言葉』
[著]坂本優二
[発行]イースト・プレス
はじめに もっと強く、もっと明るく生きるために
二〇一七年度下半期放送の、NHK連続テレビ小説『わろてんか』。
葵わかなさん演じる、このドラマのヒロイン、「藤岡てん」のモデルとなったのが、本書でとり上げる吉本せいです。
せいは実弟の正之助と協力し、日本一のお笑いエンターテインメント企業、吉本興業を創業しました。
本書では、この吉本せいと林正之助という姉弟について、二人が残した言葉を紹介しながら、私なりの解釈をお伝えしていきたいと思います。
吉本興業といえば、現在では日本でもっとも影響力のある芸能プロダクションとして知られていますが、その歴史は古く、創業はなんと明治末期。一世紀を超える長きにわたって、数多くの芸人(落語家、漫才師など)を輩出してきた、伝統ある企業なのです。
吉本興業の歴史は、そのまま日本のお笑い界の歴史ともいえます。
所属タレントの一例を挙げれば、エンタツ・アチャコ、笑福亭仁鶴、桂三枝(現・六代目文枝)、横山やすし・西川きよし、明石家さんま、ダウンタウン、ナインティナイン、オリエンタルラジオ、ピース・又吉直樹……など、誰もが知るスターばかり。
いまや吉本所属の芸人を、テレビで目にしない日はありません。
そんな「お笑い帝国」をつくり上げた姉弟とは、一体どんな人物だったのか。意外と世間では知られていません。
どのようにして、あまたの人気芸人を育てたのか?
ちっぽけな寄席から、どうやってここまで成長できたのか?
二人が大切にしていた信念や、日々、心がけていたこととは?
そして、私たちはいま、二人からどんなことを学ぶべきか?
これから本編で、くわしく解説していきたいと思います。
なお本書では、登場する人物の敬称を省略させていただきました。
また、内容の多くが古い記録にもとづくため、現代の読者にわかりやすく読んでいただけるよう、意訳している部分があります。あらかじめご了承ください。
それでは本編の始まりです。
読者のみなさんにとってこの本が、閉塞感に満ちたいまの時代を強く、そして明るく生き抜くためのヒントになれば幸いです。
日本歴史学会員 坂本優二