『吉本せいと林正之助 愛と勇気の言葉』
[著]坂本優二
[発行]イースト・プレス
ときには、
無茶もやらな
アカンときがあるんや。
参考『吉本八十年の歩み』(吉本興業)
第二次大戦の戦災で、吉本は劇場の大半を失い、当時の正之助は、修繕や建て替えに奔走していました。経済的にも、ぎりぎりの状況でした。
そんなとき正之助は、金融機関との交渉の末、
「お前らのいい方が気に食わん。そやから、金は払わん」
と突っぱねて、返済期限を無理やりに延ばしたことがあります。当然、正之助も、自分が無茶なことをいっているとはわかっていました。
ところが結果的に、この無茶を押し通すタフさが、窮地を打開する原動力になりました。
絶望的な状況に置かれても、しぶとく生き残る道を探れるかどうか。絶対に負けない、という気持ちを持ち続けることができるかどうか。それがあったからこそ、吉本は戦災という困難の中、奇跡的な復活をとげていったのです。
「ときには、無茶もやらなアカンときがあるんや」
この正之助の言葉は、窮地に追い込まれている人に、闘う勇気を与えてくれます。
最後まであきらめずに闘う
一番に飛び出せ!
負けたらあかんぞ。
参考『わらわしたい』(河出書房新社)
正之助の性格の一番の特徴は、「スピード感」です。
面白そうだと思ったら、まず動いてやってみる。結果はあとから考えればいい。
せいとともに寄席を買収していく、経営判断のスピードも並外れていました。
こうした正之助の性格は、日ごろの行動にも表れていました。
せかせかと動き回り、食事も他人の三倍は速く食べる。晩年にあっても、かまずに飲み込んでいるかのような早食いぶりに、部下たちも健康に悪いと心配していたほどでした。
車の運転手に対しては、
「右や、右が空いとる。右に行かんかい! こら、もたもたせんと、早う追い越せ! 赤信号では一番前に停まれ。信号が青になったら、一番に飛び出すんやぞ。負けたらあかんぞ」
と声をあげ、「負ける」ことを決して許さない。
その姿はまさに、「人生にブレーキはいらない」といっているかのようでした。