『世界一わかりやすい哲学の授業』
[著]小川仁志
[発行]PHP研究所
人生をトータルで考える
先生:さて、『世界一わかりやすい哲学の授業』いよいよ開講です。ここでは世界の哲学の名著を、皆さんと一緒に読み解いていきたいと思います。取り上げる名著は、古代ギリシャから現代に至るまで様々です。基本的には時代順にまんべんなく選んでいきたいと思っています。それでは参加者の皆さん、簡単に自己紹介をお願いできますか?
A子:あ、はじめまして、A子です。地元の女子高に通ってます。哲学にはすごく興味があって参加しました。よろしくお願いします。
B夫:B夫です。三十代のサラリーマンです。人生色々考えたくて参加しました。でも、哲学の知識はまったくありません。A子ちゃん、教えてね。
C吾郎:この中では一番年長だと思います。今年の春に会社を定年退職しました。第二の人生の楽しみとして哲学をかじってみようと思い参加しました。C吾郎です。
先生:皆さん、わからないことは遠慮なくどんどん質問してくださいよ。どうぞよろしくお願いします。早速授業に入りましょう。本日、取り上げるのは古代ギリシャの哲学者アリストテレスの名著『ニコマコス倫理学』です。アリストテレスのことはご存知ですか?
A子:プラトンの弟子で、現実主義者なんですよね。ラファエロの「アテナイの学堂」という絵の中で、理想主義者のプラトンは天上を指差し、アリストテレスは地面を指しているシーンがそれを象徴してるって聞いたことがあります。
先生:素晴らしい。A子さんは『ニコマコス倫理学』も読んだことがあるんですか?
A子:『政治学』は読んだことがあるんですけど、これは読んだことがありません。アリストテレスがあのアレキサンダー大王の先生だったって知って、彼の政治思想に興味をもったんです。たしか学校を開いてたんですよね。
先生:その通りです。『政治学』も有名ですが、それにつながる著作です。そのへんも今日お話しします。
B夫:A子ちゃん、すごいな…。先生、ところでニコマコスって何ですか?
先生:はっきりしたことはわかっていないのですが、一説によるとアリストテレスの息子の名前だそうです。この子に捧げられているためそう呼んできたみたいです。
C吾郎:ほ~う、それは知らなかった。
先生:こういう豆知識もはさんでいきましょう。ただでさえ堅い本を読むので、皆さん疲れるでしょうから。何しろこの本はもともと一〇巻もあったのです。でも文庫にすると二冊分ですね。
全部はなかなかフォローできませんが、主なところを中心に見ていきましょう。まず、この本は何について述べているのかについてです。一言でいうと「エウダイモニア」、簡単にいうと幸福についてです。いかにすれば人生において幸福を得られるかという話です。第一巻でもそのへんの話が中心になります。
A子:でもずっと幸福ではいられませんよね。
先生:そこなんです。アリストテレスは、人生をトータルで考えます。「人生全体を見なければ、それが生きるに値する人生であるかどうかを完全には判断できない」というのです。